では、「因果の花」の前回の続きの文章を見ていきましょう。
前回の解説はこちら。
本文
このほど悪かりつる【注1】因果に、またよきなり【注2】。
およそ三日に三庭【注3】の申楽あらん【注4】時は、指し寄り【注5】の一日なんどは、手を貯ひてあひしらひ【注6】て、三日のうちに殊に【注7】折角【注8】の日とおぼしからん【注9】時、よき能の得手【注10】に向きたらん【注11】を、眼睛【注12】をいだしてすべし【注13】。一日のうちにて【注14】も、立ち合ひなんどに、自然女時【注15】に取り逢ひたら【注16】ば、初めをば手を貯ひて、敵【注17】の男時【注18】、女時に下がる時分、よき能を揉み寄せてすべし。その時分、また、こなた【注19】の【注20】男時に返る時分なり【注21】。ここにて【注22】能よく出で来ぬれ【注23】ば、その日の第一をすべし。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 悪かりつる | ク活用の形容詞「悪し」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「悪かった」。 |
2 よきなり | ク活用の形容詞「よし」の連体形+断定の助動詞「なり」の終止形。 |
3 三庭 | 名詞。三度の舞台のこと。「庭」は行事を行う場所のこと。 |
4 あらん |
ラ変動詞「あり」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。 「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
5 指し寄り | 名詞。意味は「最初」。 |
6 あひしらひ | ハ行四段動詞「あひしらふ」の連用形。意味は「適当に処理する」。 |
7 殊に | 副詞。意味は「特に」。読みは「ことに」。 |
8 折角 | 名詞。意味は「大事」。 |
9 おぼしからん | シク活用の形容詞「おぼし」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「思われるような」。 |
10 得手 | 名詞。意味は「最も得意とするところ」。読みは「えて」。 |
11 向きたらん | カ行四段動詞「向く」の連用形+存続の助動詞「たり」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「向いているような」。 |
12 眼睛 | 名詞。意味は「重要なところ・眼目」。 |
13 すべし |
サ変動詞「す」の終止形+当然の助動詞「べし」の終止形。意味は「~するべきである」。 「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
14 にて |
格助詞。意味は「~で」。 「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
15 女時 | 名詞。意味は「運の悪い時」。読みは「めどき」。 |
16 取り逢ひたら | ハ行四段動詞「取り逢ふ」の連用形+完了の助動詞「たり」の未然形。意味は「ぶつかった」。 |
17 敵 | 名詞。競演をしている相手のこと。 |
18 男時 | 名詞。意味は「運のよい時」。読みは「をどき」。 |
19 こなた | 代名詞。意味は「こちら」。 |
20 の |
格助詞の主格。意味は「~が」。 「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
21 なり | 断定の助動詞「なり」の終止形。 |
22 にて | 格助詞。意味は「~で」。 |
23 出で来ぬれ | カ変動詞「出で来」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の已然形。意味は「できた」。 |
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現代語訳
だいたい三日に三度の舞台の猿楽があるような時は、最初の一日などは、手の内を蓄えて適当に対応して、三日のうちで特に大事な日と思われるような時に、よい能で最も得意とし、向いているようなものを、眼目を出して演じるべきである。一日の間でも、競演などで、たまたま運の悪い時にぶつかったならば、最初は手の内を蓄えて、競演の相手の運の良い時が運の悪い時に下がる頃に、よい能をたたみかけてするべきである。その時は、またこちらが運のよい時に戻るころである。この場面で能をよくできたならば、その日の一番の能をするべきである。
いかがでしたでしょうか。
この箇所で重要な文法事項は以下の通りです。
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