『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説1

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
この記事で解決できること
・音便が分かります。
・助動詞の種類と活用が分かります。
・現代語訳が分かります。
・定期試験でよく聞かれる所が分かります。
  
  
ん?
誰か家の前にいる。
  
  
  
 
  
  
  
うめえ~。
寒いから、
体が温まる~。
  
  
  
  
すいません。
人のうちの前で
食事するの止めて
もらえます? 
  
  

あっ、すいませーん。
これが人生最期の
食事なんで許して
いただけません?

   
  
えっ?
人生最期の食事?
どういうことですか?
  
  
  
私、この後、
主君と一緒に
戦なんです。
粟津の松原で。
  
  
  
  
粟津の松原?
何か『平家物語』の
「木曽の最期」
みたいですね。
  
    
  
それ、何ですか?
食べ物ですか?
教えて下さい。
  
  
食べ物じゃないですよ。
(笑)(笑)(笑)
粟津の松原に行くなら、
木曽の最期のお話、
お話致しましょう。
  
  

「木曽の最期」本文

 木曾左馬頭【注1】、その日の装束には、赤地の錦の直垂【注2】に、唐綾威の鎧【注3】着て、鍬形【注4】打つたる【注5】甲の緒締め、厳物作り【注6】の大太刀はき、石打ち【注7】の矢の、その日のいくさに射て少々残つたる【注8】を、頭高【注9】に負ひなし、滋籐【注10】の弓持つて【注11】、聞こゆる木曾の鬼葦毛といふ馬の、きはめて太う【注12】たくましい【注13】に、黄覆輪【注14】の鞍置いて【注15】乗つたりける【注16】。鐙ふんばり【注17】立ち上がり、大音声をあげて名のりける【注18】は、「昔は聞きけん【注19】ものを、木曾の冠者【注20】、今は見るらん【注21】、左馬頭兼伊予守【注22】、朝日の将軍源義仲ぞや【注23】。甲斐の一条次郎【注24】とこそ聞け【注25】。互ひによい【注26】敵ぞ。義仲討つて【注27】兵衛佐【注28】見せよや【注29】。」とて、をめいて【注30】駆く。一条次郎、「ただいま名のるは大将軍ぞ。あますな【注31】者ども、もらすな若党、討てや。」とて、大勢の中に取りこめて、我討つ取らん【注32】とぞ進みける【注33】。木曾三百余騎、六千余騎が中を縦さま・横さま・蜘蛛手【注34】・十文字に駆けわつて【注35】、後ろへつつと出でたれ【注36】ば、五十騎ばかりになりにけり【注37】。そこを破つて【注38】行くほどに、土肥二郎実平【注39】、二千余騎でささへたり【注40】。それをも破つて行くほどに、あそこでは四、五百騎、ここでは二、三百騎、百四、五十騎、百騎ばかりが中を、駆けわり駆けわり行くほどに、主従五騎にぞなりにける【注41】。五騎がうちまで【注42】討たれざりけり【注43】

「木曽の最期」重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 木曽左馬頭 人名。源義仲のこと。左馬頭(さまのかみ)は官職名。
2 直垂 名詞。鎧の下に着る衣服。
3 唐綾威の鎧 名詞。中国渡来の綾織りをつづり合わせた鎧。
4 鍬形 名詞。兜の上に付けた金属製の飾りのこと。
5 打つたる タ行四段動詞「打つ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「打ち付けている」。「打」は「打」が促音便化している。
6 厳物作り 名詞。意味は「豪華な作り」。読みは「いかものづくり」。
7 石打ち 名詞。鷲や鳶の尾の羽。
8 残つたる ラ行四段動詞「残る」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「残っている」。「残」は「残」が促音便化している。
9 頭高に ナリ活用の形容動詞「頭高なり」の連用形。矢の末端が高く突き出した背負い方のこと。読みは「かしらだかに」。
10 滋籐 名詞。黒塗りの籐のこと。
11 持つて タ行四段動詞「持つ」の連用形+接続助詞「て」。「持」は「持」がが促音便化している。
12 太う ク活用の形容詞「太し」の連用形。「太」は「太」がウ音便化している。
13 たくましい シク活用形容詞「たくまし」の連体形。「たくまし」は「たくまし」がイ音便化している。
14 黄覆輪 名詞。縁を金色で飾ったもののこと。
15 置いて カ行四段動詞「置く」の連用形+接続助詞「て」。「置」は「置」がイ音便化している。
16 乗つたりける ラ行四段動詞「乗る」の連用形+存続の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「乗っていた」。「乗」は「乗」が促音便化している。「ける」は係助詞「ぞ」に呼応している。

係り結びの法則については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの法則の解説

17 ふんばり ラ行四段動詞「ふみばる」の連用形。「ふばり」は「ふばり」が撥音便化している。
18 名のりける ラ行四段動詞「名のる」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「名乗った」。
19 聞きけん カ行四段動詞「聞く」の連用形+過去推量の助動詞「けん」の連体形。意味は「聞いていただろう」。
20 冠者 名詞。意味は「元服した少年・若者」。
21 見るらん マ行上一段動詞「見る」の終止形+現在推量の助動詞「らん」の終止形。意味は「今見ているだろう」。
22 伊予守 名詞。官職名。
23 ぞや 係助詞「ぞ」+間投助詞「や」。意味は「~だぞ」。
24 一条次郎 人名。甲斐源氏の源忠頼。頼朝方の武将。
25 聞け カ行四段動詞「聞く」の已然形。係助詞「こそ」に呼応している。
26 よい ク活用の形容詞「よし」の連体形。「よ」は「よ」がイ音便化している。
27 討つて タ行四段動詞「討つ」の連用形+接続助詞「て」。「討」は「討」が促音便化している。
28 兵衛佐 官職名。ここでは源頼朝のこと。
29 見せよや サ行下二段動詞「見す」の命令形+間投助詞「や」。意味は「見せろ」。
30 をめいて カ行四段動詞「をめく」の連用形+接続助詞「て」。「をめ」は「をめ」がイ音便化している。
31 あますな サ行四段動詞「あます」の終止形。+終助詞「な」。意味は「取り逃すな」。
32 討つ取らん ラ行四段動詞「討ち取る」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「討ち取ろう」。「討取ら」は「討取ら」が促音便化している。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

33 進みける マ行四段動詞「進む」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「進んだ」。「ける」は係助詞「ぞ」に呼応している。
34 蜘蛛手 名詞。意味は「四方八方」。読みは「くもで」。
35 駆けわつて ラ行四段動詞「駆けわる」の連用形+接続助詞「て」。意味は「駆け破って」。「駆けわ」は「駆けわ」が促音便化している。
36 出でたれ ダ行下二段動詞「出(い)づ」の連用形+完了の助動詞「たり」の已然形。意味は「出た」。
37 なりにけり ラ行四段動詞「なる」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「なってしまった」。
38 破つて ラ行四段動詞「破る」の連用形+接続助詞「て」。「破」は「破」が促音便化している。
39 土肥二郎実平 人名。頼朝方の武将。
40 ささへたり ハ行下二段動詞「ささふ」の連用形+存続の助動詞「たり」の終止形。意味は「はばんでいる」。
41 なりにける ラ行四段動詞「なる」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「なってしまった」。「ける」は係助詞「ぞ」に呼応している。
42 巴 人名。武勇に優れた女性。義仲方の武将。
43 討たれざりけり タ行四段動詞「討つ」の未然形+受身の助動詞「る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「討たれなかった」。

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「木曽の最期」現代語訳

 木曾左馬頭義仲の、その日の装いは、赤地錦の鎧直垂の上に、唐綾威の鎧を着て、鍬形を打ちつけている兜のひもをしっかりと締めて、豪華な作りの大太刀を腰にさげ、石打ちの矢で、その日の戦闘で射て少し残っているのを頭高に背負い、滋籐の弓を持ち、有名な木曾の鬼葦毛という馬で、極めて太くたくましいのに、黄覆輪の鞍を置いて乗っていた。(義仲は)馬上で鐙を踏んばって立ち上がり、大音声をあげて名乗ったことには、「昔から(噂で)聞いただろう、木曾の冠者を。(そして)今、(お前たちは)目の前に見ているであろう。(それが私)左馬頭兼伊予守、朝日の将軍源義仲だぞ。(そこの軍勢は)甲斐の国の一条次郎と聞く。互いによい敵だ。この義仲を討って、兵衛佐頼朝に見せろ。」と言って、大声をあげて馬で駆ける。一条次郎は、「ただ今名乗ったのは敵の大将軍だ。取り逃がすな、者ども。討ちもらすな、若い郎党たち。討て。」と言って、大勢の中に取り囲んで、自分が(義仲を)討ち取ろうと進んだ。木曾の三百余騎は、敵の六千余騎の中を、縦・横・四方八方・十文字に駆け破って、敵のうしろへずっと出たところ、五十騎ばかりになってしまった。そこを打ち破って行くうちに、土肥二郎実平が二千余騎ではばんでいた。それをも打ち破って行くうちに、あそこでは四、五百騎、ここでは二、三百騎、百四、五十騎、百騎ほどの敵の中を、突破して突破して行くうちに、(味方は)主従五騎だけになってしまった。五騎になるまで、女武将・巴御前は討たれなかった。
  

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・すべての音便が登場していますので、イ音便・ウ音便・促音便・撥音便が分かるようにしておきましょう。また、元の形も分かるようにしておきましょう。

・注37と注41と注43は重要表現ですので、現代語訳ができるようにしておきましょう。

・注19と注21は過去推量と現在推量の助動詞がありますので、空欄補充や現代語訳ができるようにしておきましょう。

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  

【曲亭馬琴作北尾重政画『楠正成軍慮智恵輪』(寛政九年刊)を参考に挿入画を作成】

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