『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説2

この記事で解決できること
・音便が分かります。
・助動詞の種類と活用が分かります。
・敬語表現が分かります。
・定期試験でよく聞かれる所が分かります。

  

では、「木曽の最期」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

  

『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説1

  
  

「木曽の最期」本文

 木曽殿、「おのれ【注1】は、疾う【注2】疾う、女なれ【注3】ば、いづちへも【注4】行け。我は討死せん【注5】思ふなり【注6】。もし人手にかからば自害をせんずれ【注7】ば、木曾殿【注8】最後のいくさに、女を具せられたりけり【注9】なんど言はれん【注10】ことも、しかるべからず【注11】。」とのたまひけれ【注12】ども、なほ落ちも行かざりけるが、あまりに言はれ奉つて【注13】、「あつぱれ【注14】、よからう敵がな【注15】。最後のいくさして見せ奉らん【注16】。」とて、控へたる【注17】ところに、武蔵の国に聞こえたる【注18】大力、御田八郎師重【注19】、三十騎ばかりで出で来たり【注20】。巴その中へ駆け入り、御田八郎に押し並べて、むずと取つて【注21】引き落とし、我が乗つたる【注22】鞍の前輪【注23】に押しつけて、ちつとも働かさず【注24】、首ねぢ切つて【注25】捨ててんげり【注26】。その後、物具【注27】脱ぎ捨て、東国の方へ落ちぞ行く【注28】手塚太郎【注29】討死す。手塚別当【注30】落ちにけり【注31】

「木曽の最期」重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 おのれ 名詞。意味は「お前」。
2 疾う 副詞。意味は「早く」。「疾(と)う」は「疾く」がウ音便化している。
3 なれ 断定の助動詞の已然形。
4 いづちへも 連語。意味は「どこへでも」。
5 討死せん サ変動詞「討死す」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「討ち死にしよう」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

6 思ふなり ハ行四段動詞「思ふ」の連体形+断定の助動詞「なり」の終止形。意味は「思うのである」。
7 せんずれ サ変動詞「す」の未然形+意志の助動詞「んず」の已然形。意味は「しよう」。
8 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

9 具せられけり サ変動詞「具す」の未然形+尊敬の助動詞「らる」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「お連れになっていた」。「られ」は木曽義仲に対する敬意。
10 言はれん ハ行四段動詞「言ふ」の未然形+受身の助動詞「る」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「言われるような」。
11 しかるべからず ク活用の形容詞「しかるべし」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「ふさわしくない」。
12 のたまひけれ ハ行四段動詞「のたまふ」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「おっしゃった」。「のたまひ」は尊敬語で、木曽義仲に対する敬意。

「のたまふ」については、以下のページで詳しく解説をしているので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の重要な尊敬語の意味と解説(召す・のたまふ・おはす・おぼす)

13 言はれ奉つて ハ行四段動詞「言ふ」の未然形+受身の助動詞「る」の連用形+ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の連用形+接続助詞「て」。意味は「言われ差し上げて」。「奉つ」は謙譲語で、木曽義仲に対する敬意。「奉」は「奉」が促音便化している。
14 あつぱれ 感動詞。意味は「ああ」。
15 がな 終助詞。意味は「~がほしい」。
16 見せ奉らん サ行下二段動詞「見す」の連用形+ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「お見せ差し上げよう」。「奉ら」は謙譲語で、木曽義仲に対する敬意。
17 控へたる ハ行下二段動詞「控ふ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「控えている」。
18 聞こえたる ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「聞こえている」。
19 御田八郎師重 人名。頼朝方の武将。
20 出で来たり カ変動詞「出で来」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。意味は「出てきた」。
21 取つて ラ行四段動詞「取る」の連用形+接続助詞「て」。「取」は「取」が促音便化している。
22 乗つたる ラ行四段動詞「乗る」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「乗っている」。「乗」は「乗」が促音便化している。
23 前輪 名詞。鞍の前側の山形になっているところ。
24 働かさず サ行四段動詞「働かす」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。意味は「身動きさせず」。
25 ねぢ切つて ラ行四段動詞「ねぢ切る」の連用形+接続助詞「て」。「ねぢ切」は「ねぢ切」が促音便化している。
26 捨ててんげり タ行下二段動詞「捨つ」の連用形+完了の助動詞「つ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「捨ててしまった」。「てんげり」は「てけり」に撥音と濁音が付いたもの。
27 物具 名詞。鎧と兜のこと。
28 行く カ行四段動詞「行く」の連体形。係助詞「ぞ」に呼応している。
29 手塚太郎 人名。木曽義仲の家臣。
30 手塚別当 人名。木曽義仲の家臣。
31 落ちにけり タ行上二段動詞「落つ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「逃げ落ち延びてしまった」。

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「木曽の最期」現代語訳

 木曽義仲殿は巴に、「お前は、早く早く、女性であるので、どこへでも行け。私は討死しようと思うのである。もし敵の手にかかったなら、自害をしようと思うので、敵に『木曽殿が最後の戦いに、女性をお連れになっていた』などと言われるようなことはふさわしくない。」とおっしゃったが、それでも(巴は)逃げ落ちて行かなかったが、(木曽殿から)あまりに言われ差し上げて、「ああ、良い敵がほしい。最後の戦いをして(義仲様に)お見せ差し上げよう。」と言って、控えている所に、武蔵の国で武勇で聞こえている怪力(の持ち主の)、御田八郎師重が、三十騎ばかりで出てきた。巴はその中に駆け入り、御田八郎に(馬を)押し並べて、むんずと組んで引き落とし、自分の乗っている馬の鞍の前輪に(師重を)押しつけて、少しも身動きさせず、その首をねじり切って捨ててしまった。その後、鎧と兜を脱ぎ捨て、東国の方へ逃げ落ちのびて行く。手塚太郎は討ち死にした。手塚別当は逃げ落ち延びてしまった。
  

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・音便は種類と元の形が分かるようにしておきましょう。

・敬語表現は種類と誰に対する敬意かが分かるようにしておきましょう。

(この部分に登場する敬語表現はすべて木曽義仲に対する敬意です)

・注26の「てんげり」と注31「にけり」は品詞が分かるようにしておきましょう。

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説3

  

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