『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説3

この記事で解決できること
・音便が分かります。
・助動詞の種類と活用が分かります。
・敬語表現が分かります。
・定期試験でよく聞かれる所が分かります。

  

では、「木曽の最期」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

  

『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  
  

「木曽の最期」本文

 今井四郎【注1】、木曾殿、主従二騎になつて【注2】のたまひける【注3】は、「日ごろは何ともおぼえぬ【注4】鎧が、今日は重う【注5】なつたるぞや【注6】。」今井四郎申しける【注7】は、「御身もいまだ疲れさせたまはず【注8】。御馬も弱り候はず【注9】。何によつて【注10】か、一両の御着背長【注11】を重うは思しめし候ふべき【注12】。それは味方に御勢が候はね【注13】ば、臆病でこそさは思しめし候へ【注14】。兼平一人候ふ【注15】とも、余の武者千騎と思しめせ【注16】。矢七つ八つ候へ【注17】ば、しばらく防ぎ矢つかまつらん【注18】。あれに見え候ふ【注19】、粟津の松原と申す【注20】。あの松の中で御自害候へ【注21】。」とて、打つて【注22】行くほどに、また新手の武者五十騎ばかり出で来たり【注23】

「木曽の最期」重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 今井四郎 人名。木曽義仲の乳母兄弟。
2 なつて ラ行四段動詞「なる」の連用形+接続助詞「て」。「な」は「な」が促音便化している。
3 のたまひける ハ行四段動詞「のたまふ」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「おっしゃった」。「のたまひ」は尊敬語で、木曽義仲に対する敬意。

「のたまふ」については、以下のページで詳しく解説をしているので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の重要な尊敬語の意味と解説(召す・のたまふ・おはす・おぼす)

4 おぼえぬ ヤ行下二段動詞「おぼゆ」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。意味は「思わない」。
5 重う ク活用の形容詞「重し」の連用形。「重」は「重」がウ音便化している。
6 なつたるぞや ラ行四段動詞「なる」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形+係助詞「ぞ」+間投助詞「や」。意味は「なったなあ」。「な」は「な」が促音便化している。
7 申しける サ行四段動詞「申す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「申し上げた」。「申し」は謙譲語で、木曽義仲に対する敬意。
8 疲れさせたまはず ラ行下二段動詞「疲る」の未然形+尊敬の助動詞「さす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「お疲れになっておりません」。「させたまは」は二重尊敬で、木曽義仲に対する敬意。

会話文の敬意の方向(誰から誰に)については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の敬意の方向(誰から誰に)の解説

9 弱り候はず ラ行四段動詞「弱る」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「候ふ」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「弱っておりません」。「候は」は丁寧語で、木曽義仲に対する敬意。
10 よつて ラ行四段動詞「よる」の連用形+接続助詞「て」。「よ」は「よ」が促音便化している。
11 一領の御着背長 名詞。意味は「一着の鎧」。
12 思しめし候ふべき サ行四段動詞「思しめす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「候ふ」の終止形+当然の助動詞「べし」の連体形。意味は「お思いになるはずがあります」。「思しめし」は尊敬語で、木曽義仲に対する敬意。「候ふ」は丁寧語で、木曽義仲に対する敬意。「べき」は係助詞「か」に呼応している。

係り結びの法則については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの法則の解説

13 候はね ハ行四段動詞「候ふ」の未然形+打消の助動詞「ず」の已然形。意味は「ございません」。「候は」は丁寧語で、木曽義仲に対する敬意。
14 思しめし候へ サ行四段動詞「思しめす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「候ふ」の已然形。意味は「お思いになるのでございます」。「候へ」は丁寧語で、木曽義仲に対する敬意。「候へ」は係助詞「こそ」に呼応している。
15 候ふ ハ行四段動詞「候ふ」の終止形。意味は「ございます」。丁寧語で、木曽義仲に対する敬意。
16 思しめせ サ行四段動詞「思しめす」の命令形。意味は「お思いになって下さい」。尊敬語で、木曽義仲に対する敬意。
17 候へ ハ行四段動詞「候ふ」の已然形。意味は「ございます」。丁寧語で、木曽義仲に対する敬意。
18 つかまつらん ラ行四段動詞「つかまつる」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「差し上げましょう」。「つかまつる」は謙譲語で、木曽義仲に対する敬意。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

19 見え候ふ ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「候ふ」の連体形。意味は「見えます」。「候ふ」は丁寧語で、木曽義仲に対する敬意。
20 申す サ行四段動詞「申す」の終止形。意味は「申します」。謙譲語で、木曽義仲に対する敬意。
21 候へ ハ行四段動詞「候ふ」の命令形。意味は「なさいませ」。丁寧語で、木曽義仲に対する敬意。
22 打つて タ行四段動詞「打つ」の連用形+接続助詞「て」。「打」は「打」が促音便化している。
23 出で来たり カ変動詞「出で来」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。意味は「出てきた」。

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「木曽の最期」現代語訳

 今井四郎と木曽殿と主従二騎だけになって、木曽殿のおっしゃったことには、「いつもは何とも思わない鎧が、今日は重くなったなあ。」今井四郎が申し上げたことは、「お体はまだお疲れになってはおりません。御馬も弱っておりません。何が原因で、一着の鎧を重くお思いになるはずがありますでしょうか。それは、味方に御軍勢がございませんので、臆病になって、そのようにお思いになるのでございます。私兼平が一人おりますので、他の武士千騎に当たるとお思いになって下さい。矢が七、八本ございますので、しばらく防ぎ矢をして差し上げましょう。あそこに見えますのは、粟津の松原と申します。あの松の中で御自害なさいませ。」と言って、馬に鞭打って行くうちに、また(敵の)新手の武士が五十騎ほど出てきた。
  

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・音便は種類と元の形が分かるようにしておきましょう。

・敬語表現は種類が分かるようにしておきましょう。

・会話文の中にある敬語表現はすべて今井四郎から木曽義仲に対する敬意なので、分かるようにしておきましょう。

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説4

  

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