・・・。
「ゆく川の流れは絶えずして」だな。
倉橋さーん。
えっ、誰?
私でーす。由井でーす。
えっ、由井君?
あなた、確か八丈島に
島流しになったんじゃ
なかったけ?
脱走してきたんでーす。
舟作ってー。
舟って、その乗ってる
猪牙舟(ちょきぶね)?
それで、八丈島から
逃げてきたの?
※猪牙舟とは、江戸時代に新吉原に通う客が乗った屋根のない細長な小舟のことです。
はい。時間がかかりましたが、
帰って来れました。
ところで倉橋さん。私、今度は
俳諧をやりたいんですが、
教えてくれませんか?
連歌の次は、俳諧!?
色々手出しますねー。
まあいいでしょう。
教えてあげましょう。
本文
先師いはく、「発句はものを合はすれ【注19】ば出来せ【注20】り【注21】。そのよく【注22】取り合はするを上手といひ、あしき【注23】を下手といふ。」許六【注24】いはく、「発句は取り合はせものなり【注25】。先師いはく、『これほどし【注26】よきことの【注27】ある【注28】を人は知らず【注29】。』となり。」
去来【注30】いはく、「ものを取り合はせて作する【注31】ときは、句多く吟【注32】速やかなり【注33】。初学の人、これを思ふべし【注34】。功【注35】成るに及んでは、取り合はす、取り合はせざるの論【注36】にあらず。」
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 先師 |
去来の師匠である亡くなった松尾芭蕉のこと。 |
2 いはく | 動詞。副詞的に用いて下の引用語句を導くもので、意味は「言うことには」。 |
3 発句 | 名詞。連歌や俳諧の最初の5・7・5の句。最初なので、季語や切れ字を入れるのがルール。 |
4 頭 | 名詞。読みは「かしら」。意味は「発句の初めの五文字」。 |
5 たる | 存続の助動詞「たり」の連体形。「たる」の後に「もの」という名詞が省略されている。意味は「~している」。 |
6 上品 | 名詞。読みは「じょうぼん」。意味は「最上位・一級品」。 |
7 す | サ変動詞「す」の終止形。 |
8 洒堂 | 名詞。芭蕉の門人。 |
9 なんぢ | 名詞。意味は「そなた・お前」。 |
10 ごとく | 例示の助動詞「ごとし」の連用形。意味は「~のようだ」。 |
11 する | サ変動詞「す」の連体形。 |
12 に | 断定の助動詞「なり」の連用形。意味は「~だ・~である」。 「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
13 あらず | ラ変動詞「あり」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「~でない」。 |
14 こがね | 名詞。意味は「黄金」。 |
15 ごとく | 比況の助動詞「ごとし」の連用形。 |
16 なる | ラ行四段動詞「なる」の終止形。意味は「する・作る」。 |
17 べし | 義務の助動詞「べし」の終止形。意味は「~なければならない」。 「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
18 となり | 格助詞「と」+断定の助動詞「なり」の終止形。意味は「~というのである・~ということである」。 |
19 合はすれ | サ行下二段動詞「あはす」の已然形。 |
20 出来せ | 名詞「出来」+サ変動詞「す」の未然形。 |
21 り | 完了の助動詞「り」の終止形。 |
22 よく | ク活用の形容詞「よし」の連用形。 |
23 あしき | シク活用の形容詞「あし」の連体形。意味は「悪い・つたない」。 |
24 許六 | 名詞。芭蕉の門人で蕉門十哲の一人。 |
25 なり | 断定の助動詞「なり」の終止形。 |
26 し | サ変動詞「す」の連用形。 |
27 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。 助詞「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
28ある | ラ変動詞「あり」の連体形。 |
29 ず | 打消の助動詞「ず」の終止形。 |
30 去来 | 名詞。芭蕉の門人で蕉門十哲の一人。『去来抄』の著者。 |
31 作する | 名詞「作」+サ変動詞「す」の連体形。 |
32 吟 | 名詞。意味は「詩歌などを作ったり、声に出したりすること」。 |
33 速やかなり | ナリ活用の形容動詞「速やかなり」の終止形。 |
34 べし | 適当の助動詞「べし」の終止形。意味は「~するのがよい」。 |
35 功 | 名詞。意味は「成果」。 |
36 論 | 名詞。意味は「見解」。 |
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現代語訳
また、先生がおっしゃったことには、「発句は素材を合わせると、出来上がる。上手に取り合わせるのを上手といい、拙く取り合わせるのを下手という。」と。許六が言うことには、「発句は素材を取り合わせるものである。先生がおっしゃったことには、『これほど、作りやすい方法があるのを人は知らない』とおっしゃっておりました。」と。
最後に私、去来が言うことには、「素材を取り合わせて作る時は、句も多く作れ、詠み上げも速やかである。初心者はこの方法で句作りをするのがよい。経験を積んだ後に及んでは、素材を取り合わせるのがよいか、取り合わせないのがよいかの見解に従わないのがよい。」と。
いかがでしたでしょうか。
この文章で重要な文法事項は以下の通りです。
・注18・25・33にある「なり」の種類が分かるようにしておきましょう。
(注18・25は断定の助動詞、33は形容動詞の一部)
・この文章で語られる句の作成法と誰が主張しているかを理解しておきましょう。
○第一段落-「発句は、素材を二つ三つ取り集めして作るのではなく、黄金の延べ棒のように一つにつながったものにする」(芭蕉)
○第二段落-「素材を上手に取り合わせれば、出来る」(芭蕉)
○第三段落-、「初心者は素材の取り合わせの句作法を利用し、熟練者は取り合わせる方法にこだわらず、一つにつながったものを作る方法も利用してもよい」(去来)
いやー、勉強になりました。
今度、連句の会を開こう
と思いますので、倉橋さんも
よろしかったらどうぞ。
えっ、よろしいんですか?
メンバーは誰ですか?
天草さんと大塩さんです。
二人とは八丈島で
仲良くなりました。
まだ二人も後で
脱走してきます。
天草さんに、大塩さん!
皆、反乱を起こした人
じゃないですか・・・。
私、そんな度胸はないので、
やめておきます・・・。
【市場通笑作北尾重政画『正説河童呪 』(天明四年刊)を参考に挿入画を作成】