では、「うつろひたる菊」の前回の続きの文章を見ていきましょう。
前回の解説はこちら。
『蜻蛉日記』「うつろひたる菊」の現代語訳と重要な品詞の解説2
本文
つとめて【注1】、なほ【注2】もあらじ【注3】と思ひて、
嘆きつつひとり寝る夜の【注4】あくる【注5】間はいかに【注6】久しきものとかは知る【注7】
と、例【注8】よりはひきつくろひ【注9】て書きて、うつろひたる【注10】菊にさしたり【注11】。返り事、「明くるまでも試みむ【注12】としつれ【注13】ど、とみなる【注14】召し使ひの【注15】来合ひたりつれ【注16】ばなむ【注17】。いとことわりなりつるは【注18】。
げにや【注19】げに冬の夜ならぬ【注20】まきの戸も遅くあくるはわびしかりけり【注21】」
さても、いとあやしかりつる【注22】ほどに、ことなしびたる【注23】。しばしは、忍びたる【注24】さまに、「内裏に。」など言ひつつぞあるべき【注25】を、いとどしう【注26】心づきなく【注27】思ふことぞ、限りなきや【注28】。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 つとめて | 名詞。意味は「翌朝」。 |
2 なほ | 副詞。意味は「そのまま何もしないで」。 |
3 あらじ | ラ変動詞「あり」の未然形+打消意志の助動詞「じ」の終止形。意味は「いられまい」。 |
4 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。
「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
5 あくる | カ行下二段動詞「あく」の連体形。「明くる」と「開くる」の掛詞になっている。 |
6 いかに | 副詞。意味は「どんなに」。 |
7 知る | ラ行四段動詞「知る」の連体形。係助詞「かは」に呼応している。 |
8 例 | 名詞。意味は「いつも」。 |
9 ひきつくろひ | ハ行四段動詞「ひきつくろふ」の連用形。意味は「注意を払う」。 |
10 うつろひたる | ハ行四段動詞「うつろふ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「色あせている」。 |
11 さしたり | サ行四段動詞「さす」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。意味は「挿した」。 |
12 試みむ | マ行上一段動詞「試みる」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「試みよう」。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
13 しつれ | サ変動詞「す」の連用形+完了の助動詞「つ」の已然形。意味は「した」。 |
14 とみなる | ナリ活用の形容動詞「とみなり」の連体形。意味は「急だ」。 |
15 の | 格助詞の主格。「~が」。 |
16 来合ひたりつれ | ハ行四段動詞「来合ふ」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+完了の助動詞「つ」の已然形。意味は「来合わせてしまった」。 |
17 なむ | 係助詞「なむ」。「なむ」の後に「帰りし・去りし」などが省略されている。
係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
18 ことわりなりつるは | ナリ活用の形容動詞「ことわりなり」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形+終助詞「は」。意味は「当然のことであったなあ」。 |
19 げにや | 副詞「げに」+間投助詞「や」。意味は「本当に」。 |
20 ならぬ | 断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。意味は「ではない」。 |
21 わびしかりけり | シク活用の形容詞「わびし」の連用形+詠嘆の助動詞「けり」の終止形。意味は「つらいものだなあ」。 |
22 あやしかりつる | シク活用の形容詞「あやし」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「不審に思っていた」。 |
23 ことなしびたる | バ行四段動詞「ことなしぶ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「素知らぬ顔をしている」。 |
24 忍びたる | バ行上二段動詞「忍ぶ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「隠している」。 |
25 あるべき | ラ変動詞「あり」の連体形+当然の助動詞「べし」の連体形。意味は「あるべき」。 |
26 いとどしう | シク活用の形容詞「いとどし」の連用形。意味は「ますます」。「いとどしう」は「いとどしく」がウ音便化している。 |
27 心づきなく | ク活用の形容詞「心づきなし」の連用形。意味は「不愉快だ」。 |
28 限りなきや | ク活用の形容詞「限りなし」の連体形+間投助詞「や」。意味は「この上ないことよ」。 |
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現代語訳
翌朝、そのままなにもしないでいられまいと思って、(和歌を詠んだ。)
嘆きながら、一人で寝る夜が明けるまでの間が、どんなに長いものかを、あなたは分かっていますでしょうか。戸を開ける間も待てないあなたですから、分からないでしょうね。
と、いつもよりは注意を払って書いて、色のあせている菊に挿した。(そしてそれを夫に送った。)夫の返事として、「夜が明けるまでも待つことを試みようとしたけれども、急用の役人が来合わせてしまったので、(行かざるを得なかったのですよ。)(あなたが言うことは)しごく当然のことでありましたよ。
本当に本当に(あなたが言うとおり冬の夜はなかなか明けずつらいものだけれど)、冬の夜ではない槇の戸を、なかなか開けてもらえないのもつらいことでしたよ。」
それにしても、とても不審に思っている中で、(夫は)素知らぬ顔をしている。しばらくは、隠している感じで、「宮中に(行く)。」などと言い続けるべきなのに、ますます不愉快に思うことは、この上ないことよ。
いかがでしたでしょうか。
この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。
・和歌の掛詞が分かるようにしておきましょう(注5)。
・係り結びの省略は、省略された語が補えるようにしておきましょう(注17)。
・注18「ことわりなり」・注19「げに」・注21「わびし」・注22「あやし」・注23「ことなしぶ」・注27「心づきない」は重要単語ですので、訳せるようにしておきましょう。
倉橋先生!
講義ありがたいんですが、
この話、仲直りできてない
じゃないですか!!
だから言ったでしょ。
この場面に相応しく
ないって!!
知りませんよ。
やばい!!
妻が変身した!!
!!! 何これ?
奥さん、変わりすぎでしょ!!
うちに妻、
めちゃくちゃ強いので、
たぶんやられちゃうと
思うんですけど、
一緒に戦いましょう。
一緒にって、私、
関係ないですけど。
何で戦うのですか?
ボス戦と同じなんで、
強制的に戦闘に
なりまーす。
!!!
この画面、前にも
出てきたな!
※参考リンク
倉橋先生、この前より
レベル上がりましたね。
本当だ!!
1上がってる!!
もしかしたら、倒せるかも。
【芝全交作式上亭柳郊画『本能見世物』(寛政二年刊)を参考に挿入画を作成】