『源氏物語』「薫と宇治の姫君」の現代語訳と重要な品詞の解説5

  

では、「薫と宇治の姫君」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

  

『源氏物語』「薫と宇治の姫君」の現代語訳と重要な品詞の解説4

  
  

本文

及ばず【注1】とも、これも月に離るる【注2】ものかは【注3】。」など、はかなき【注4】ことを、うちとけ【注5】のたまひかはしたる【注6】けはひ【注7】ども、さらに【注8】よそに思ひやりし【注9】には似ず【注10】、いとあはれに【注11】なつかしう【注12】をかし【注13】。昔物語などに語り伝へて、若き女房など【注14】読むをも聞くに、必ずかやうのことを言ひたる【注15】さしも【注16】あらざりけむ【注17】と、憎く【注18】推し量らるる【注19】を、げに【注20】あはれなるもののくま【注21】ありぬべき【注22】なりけり【注23】と、心移りぬべし【注24】
霧の深ければ、さやかに【注25】見ゆべく【注26】あらず【注27】。また月さし出でなむ【注28】おぼす【注29】ほどに、奥の方より、「人おはす【注30】。」と告げ聞こゆる【注31】人やあらむ【注32】、簾下ろしてみな入りぬ【注33】。おどろき顔【注34】はあらず、なごやかに【注35】もてなして、やをら【注36】隠れぬる【注37】けはひども、衣の音もせず【注38】、いとなよよかに【注39】心苦しう【注40】て、いみじう【注41】あてに【注42】みやびかなる【注43】を、あはれ【注44】思ひ給ふ【注45】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 及ばず バ行四段動詞「及ぶ」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。
2 離るる ラ行下二段動詞「離る」の連体形。
3 ものかは 連語。意味は「~ことはない」。
4 はかなき ク活用の形容詞「はかなし」の連体形。意味は「たわいもない」。
5 うちとけ カ行下二段動詞「うちとく」の連用形。意味は「くつろぐ」。
6 のたまひかはしたる ハ行四段動詞「のたまふ」の連用形+サ行四段活用の補助動詞「かはす」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「互いにおっしゃっている」。「のたまひ」は尊敬語で、「姫君たち」に対する敬意。
7 けはひ 名詞。意味は「様子」。
8 さらに 副詞。意味は「まったく」。
9 思ひやりし ラ行四段動詞「思ひやる」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「想像した」。
10 似ず ナ行上一段動詞「似る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。意味は「似ない」。
11 あはれに ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。意味は「しみじみとする」。
12 なつかしう シク活用の形容詞「なつかし」の連用形。意味は「親しみやすい」。「なつかし」は「なつかし」がウ音便化している。
13 をかし シク活用の形容詞「をかし」の終止形。意味は「愛らしい」。
14 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

15 言ひたる ハ行四段動詞「言ふ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。「たる」の後に「こと」が省略されている。
16 さしも 副詞。意味は「そのようにも」。
17 あらざりけむ ラ変動詞「あり」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形+過去推量の助動詞「けむ」の終止形。意味は「なかっただろう」。
18 憎く ク活用の形容詞「憎し」の連用形。意味は「気に入らない」。
19 推し量らるる ラ行四段動詞「推し量る」の未然形+自発の助動詞「る」の連体形。意味は「推量する」。
20 げに 副詞。意味は「本当に」。
21 くま 名詞。意味は「へんぴな所」。
22 ありぬべき ラ変動詞「あり」の連用形+強意(確述)の助動詞「ぬ」の終止形+推量の助動詞「べし」の連体形。意味は「あるにちがいない」。

「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「べし」の識別の解説

23 なりけり 断定の助動詞「なり」の連用形+詠嘆の助動詞「けり」の終止形。意味は「~であるなあ」。
24 移りぬべし ラ行四段動詞「移る」の連用形+強意(確述)の助動詞「ぬ」の終止形+推量の助動詞「べし」の終止形。意味は「引きつけられるにちがいない」。
25 さやかに ナリ活用の形容動詞「さやかなり」の連用形。意味は「はっきりと」。
26 見ゆべく ヤ行下二段動詞「見ゆ」の終止形+可能の助動詞「べし」の連用形。意味は「見ることができる」。
27 あらず ラ変動詞「あり」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。
28 さし出でなむ ダ行下二段動詞「さし出づ」の未然形+願望の終助詞「なむ」。意味は「現れ出てほしい」。

「なむ」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「なむ」の識別の解説

29 おぼす サ行四段動詞「おぼす」の連体形。意味は「お思いになる」。「思ふ」の尊敬語で、「薫」に対する敬意。
30 おはす サ変動詞「おはす」の終止形。意味は「いらっしゃる」。「あり」の尊敬語で、「人」に対する敬意。

重要な尊敬語「おはす」については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

重要な尊敬語「おはす」の解説

会話文の敬意の方向(誰から誰に)については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の敬意の方向(誰から誰に)の解説

31 聞こゆる ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の連体形。意味は「申し上げる」。 「言ふ」の尊敬語で、「姫君たち」に対する敬意。
32 あらむ ラ変動詞「あり」の未然形+推量の助動詞「む」の連体形。意味は「いるのだろう」。「む」は、係助詞「や」に呼応している。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

33 入りぬ ラ行四段動詞「入る」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の終止形。意味は「入ってしまった」。
34 に 断定の助動詞「なり」の連用形。
35 なごやかに ナリ活用の形容動詞「なごやかなり」の連用形。
36 やをら 副詞。意味は「そっと」。
37 隠れぬる ラ行下二段動詞「隠る」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連体形。意味は「隠れてしまった」。
38 せず サ変動詞「す」の連用形+打消の助動詞「ず」の連用形。意味は「しない」。
39 なよよかに ナリ活用の形容動詞「なよよかなり」の連用形。意味は「ものやわらか」。
40 心苦しう シク活用の形容詞「心苦し」の連用形。意味は「いじらしい」。「心苦し」は「心苦し」がウ音便化している。
41 いみじう シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「たいそう」。「いみじ」は「いみじ」がウ音便化している。
42 あてに ナリ活用の形容動詞「あてなり」の連用形。意味は「上品だ」。
43 みやびかなる ナリ活用の形容動詞「みやびかなり」の連体形。意味は「優雅なさま」。
44 あはれ ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の語幹。意味は「しみじみ」。
45 思ひ給ふ ハ行四段動詞「思ふ」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の終止形。意味は「思いなさる」。「給ふ」は尊敬語で、「薫」に対する敬意。

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現代語訳

 「(関係性で言うと扇には)及ばないが、撥も月と関連しないものではないよ。」などと、たわいもないことを、くつろいで互いにおっしゃっている様子などは、まったく他の所で想像したものとは似ず、とてもしみじみと親しみやすく、愛らしい(姿であった)。昔物語などで語り伝えて、若い女房などが読むのをも聞くと、必ずこのような話が書いてあるが、(昔話を聞き終わったあと)そのようにはなかっただろうと、気に入らなく推量するのに、(今回は)本当に趣深いへんぴな所があるにちがいない世であるのだなあと、(薫は姫君に)心を引きつけられるにちがいない(状況であった)。
霧が深いので、(姫君たちの姿は)はっきりと見ることもできない。また月が現れ出てほしいと(薫が)お思いになるうちに、奥の方から、「客人がいらっしゃいます。」と告げ申し上げる人がいたのであろうか、簾を下ろしてみな(部屋の中に)入ってしまった。(二人の姫君は)驚いた顔ではなく、和やかに振る舞って、そっと隠れてしまった様子などは、衣ずれの音もせず、とてもものやわらかでいじらしく、たいそう上品で優雅なさまであったのを、(薫は)しみじみと感じ、お思いなさる。
  

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・注2と19の「るる」の識別ができるようにしておきましょう。
(注2→動詞の一部、注19→自発の助動詞)

・注22と24の助動詞が組み合わされている「ぬべし」は助動詞の意味が分かるようにしておきましょう。

・注28の「なむ」は品詞が分かるようにしておきましょう。

   
 
  ありがとうございました。
とても勉強になりました。
私が慕う宇治の姫君と
そっくりな描写でした。
 
   
 
 
そうですか。
ちなみにあなたが
慕う宇治の姫君って
どんな人ですか?
 
  
  
  
私が慕うのは……、
宇治を代表する姫君、
安田美沙子」です。
  
  
 
……。
……。
二児の母!!
  
  

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