『今昔物語集』「狼と母牛」の現代語訳と重要な品詞の解説3

では、「狼と母牛」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『今昔物語集』「狼と母牛」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  

本文

 子は、傍らに泣きて臥せりけり【注1】。牛の主【注2】来たれる【注3】を見て、その時になむ【注4】狼を放ちたりけれ【注5】ば、狼は死に【注6】て、皆ひしげてなむありける【注7】
牛の主これを見て、「あさまし【注8】。」と思ひけるに、「夜前、狼【注9】【注10】食はむ【注11】しける【注12】を、かく突き付けたりける【注13】に、『放ちてば【注14】食はれなむず【注15】。』と思ひて、夜もすがら【注16】放たざりける【注17】なりけり【注18】。」と心得【注19】て、牛をなむ、「いみじく【注20】賢かりける【注21】かな【注22】。」と褒めて、具し【注23】て家に帰りにけり【注24】
然れば【注25】、獣なれ【注26】ども、魂あり賢き奴は、かくぞありける。これは、まさしくそのほとりなる【注27】【注28】、聞き継ぎて、かく語り伝へたる【注29】とや【注30】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 臥せりけり サ行四段動詞「臥す」の已然形+存続の助動詞「り」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「臥せていた」。
2 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

3 来たれる ラ行四段動詞「来(き)たる」の已然形+完了の助動詞「り」の連体形。
4 なむ 係助詞。本来なら文末が連体形(放ちたりける)になるのだが、接続助詞の「ば」があるため、係り結びの法則が流れて(消滅して)いる。

係り結びの流れについては、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

5 放ちたりけれ タ行四段動詞「放つ」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。
6 死に ナ変動詞「死ぬ」の連用形。
7 ありける ラ変動詞「あり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。係助詞「なむ」に呼応している。
8 あさまし シク活用の形容詞「あさまし」の終止形。意味は「驚く」。
9 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
10 来 カ変動詞「来(く)」の連用形。読みは「き」。
11 食はむ ハ行四段動詞「食ふ」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「食べよう」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

12 しける サ変動詞「す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。
13 突き付けたりける カ行下二段動詞「突き付く」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。
14 てば 完了の助動詞「つ」の未然形+接続助詞の「ば」。意味は「~てしまったら」。
15 食はれなむず ハ行四段動詞「食ふ」の未然形+受身の助動詞「る」の連用形+強意(確述)の助動詞「ぬ」の未然形+推量の助動詞「むず」の終止形。意味は「きっと食べられしまうだろう」。
16 夜もすがら 副詞。意味は「一晩中」。
17 ざりける 打消の助動詞「ず」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。
18 なりけり 断定の助動詞「なり」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。
19 心得 ア行下二段動詞「心得(こころう)」の連用形。読みは「こころえ」。
20 いみじく シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「たいそう」。
21 賢かりける ク活用の形容詞「賢し」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。
22 かな 終助詞。詠嘆の意味を表わす。意味は「~だなぁ」。
23 具し サ変動詞「具す」の連用形。意味は「連れていく」。
24 帰りにけり ラ行四段動詞「帰る」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「帰ってしまった」。
25 然れば 接続詞。意味は「そうであるから」。
26 なれ 断定の助動詞「なり」の已然形。
27 なる 存在の助動詞「なり」の連体形。意味は「~にある」。
28 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
29 伝へたる ハ行下二段動詞「伝ふ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「伝えている」。
30 とや 格助詞「と」+係助詞「や」。「とや」の後に「言ふ」が省略されている。意味は「~と言うことだ」。

係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

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現代語訳

 子牛は、側で泣いて臥せていた。牛の持ち主が来たのを見て、その時に(母牛は)狼を放したので、狼は死んで、すっかりつぶれていた。
牛の持ち主はこれを見て、「驚いた。」と思ったが、「ゆうべ、狼が来て食べようとしたのを、(母牛は)このように突き押しつけていたのだが、(母牛が)『放してしまったら、きっと食べられしまうだろう。』と思って、一晩中放さなかったのであった。」と心得て、牛を、「たいそう賢かった奴だなぁ。」と褒めて、連れて家に帰ってしまったのだった。
そうであるから、獣であっても、分別があり賢い奴は、このようであったのだ。これは、確かにその辺りに住んでいた者が、聞き継いで、このように語り伝えていると言うことだ。
  

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所にも重要な文法事項がたくさんあります。

まず、「注3」の「来たれ」はカ変動詞「来」ではありませんので、注意しておきましょう

次に、「注14」・「注15」の文章「放ちてば食はれなむず」は、重要な文法がたくさん組み合わされた一文ですので、現代語訳と品詞分解がきちんとできるようにしておきましょう

そして、「注30」の「とや」は、物語などの文末でよく使われる表現ですので、覚えておいて損ないです

  感動的な話でした。
ところで、この話だと母牛は
亡くなっていないのですが、
最初、母の命日だと
言ってませんでした?
  

あっ、あれは話に興味を
持ってもらうために、
言った冗談です。
私の母は健在です。
ご紹介しますよ。母さーん。
  

  

はーい。

呼んだ?

  

  

・・・。
(牛じゃない…。)

  

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