では、「猫・大納言殿の姫君」の前回の続きの文章を見ていきましょう。
前回の解説はこちら。
『更級日記』「猫・大納言殿の姫君」の現代語訳と重要な品詞の解説1
本文
わづらふ姉、おどろき【注1】て、「いづら【注2】、猫は。こち率【注3】て来【注4】。」とあるを、「など【注5】。」と問へば、「夢に、この猫の傍らに来て、『おのれ【注6】は、侍従の大納言の御女の【注7】かくなりたるなり【注8】。さるべき【注9】縁の【注10】いささか【注11】ありて、この中の君【注12】の【注13】すずろに【注14】あはれ【注15】と思ひ出でたまへ【注16】ば、ただしばしここにあるを、このごろ下衆【注17】の中にありて、いみじう【注18】わびしき【注19】こと。』と言ひて、いみじう泣くさまは、あてに【注20】をかしげなる【注21】人と見え【注22】て、うちおどろきたれ【注23】ば、この猫の声にて【注24】ありつる【注25】が、いみじく【注26】あはれなるなり【注27】。」と語りたまふ【注28】を聞くに、いみじくあはれなり。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 おどろき | カ行四段動詞「おどろく」の連用形。意味は「目を覚ます」。 |
2 いづら | 感動詞。意味は「どうして」。 |
3 率 | ワ行上一段動詞「率る」の連用形。意味は「引き連れる」。 |
4 来 | カ変動詞「来(く)」の命令形。読みは「こ」。 |
5 など | 副詞。意味は「どうして」。 |
6 おのれ | 代名詞。意味は「われ」。 |
7 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。
「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
8 なりたるなり | ラ行四段動詞「なる」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形+断定の助動詞「なり」の終止形。意味は「なっているのである」。 |
9 さるべき | 連語。意味は「そうなってしかるべき」。 |
10 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。 |
11 いささか | 副詞。意味は「ほんの少し・ちょっと」。 |
12 中の君 | 名詞。次女のことで、ここでは作者のこと。 |
13 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。 |
14 すずろに | ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連用形。意味は「むやみ・やたら」。 |
15 あはれ | ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の語幹。意味は「しみじみと感じること」。 |
16 思ひ出でたまへ | ダ行下二段動詞「思ひ出づ」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の已然形。意味は「思い出しなさる」。「たまへ」は尊敬語で、中の君に対する敬意。 |
17 下衆 | 名詞。意味は「使用人」。 |
18 いみじう | シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「たいへん」。「いみじう」は「いみじく」がウ音便化している。 |
19 わびしき | シク活用の形容詞「わびし」の連体形。意味は「つらい」。 |
20 あてに | ナリ活用の形容動詞「あてなり」の連用形。意味は「高貴なさま」。 |
21 をかしげなる | ナリ活用の形容動詞「をかしげなり」の連体形。意味は「かわいらしいさま」。 |
22 見え | ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形。 |
23 うちおどろきたれ | カ行四段動詞「うちおどろく」の連用形+完了の助動詞「たり」の已然形。意味は「ふっと目を覚ました」。 |
24 にて | 断定の助動詞「なり」の連用形+接続助詞「て」。
「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
25 ありつる | ラ変動詞「あり」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「あった」。 |
26 いみじく | シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「たいそう」。 |
27 あはれなるなり | ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連体形+断定の助動詞「なり」の終止形。意味は「しみじみと寂しいのである」。 |
28 語りたまふ | ラ行四段動詞「語る」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の連体形。意味は「語りなさる」。「たまふ」は尊敬語で、姉に対する敬意。 |
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現代語訳
病気を患っている姉が目を覚まし、「どうしたの猫は。こっちへ引き連れて来なさい。」と言ったので、私が「どうしてですか。」と尋ねると、姉は「夢で、この猫が私のそばに来て、『われは、侍従の大納言の娘がこのような姿になっているのである。しかるべき因縁がちょっとあって、ここの中の君がむやみにしみじみと感じて私のことを思い出しなさるので、ちょっとしばらくここにいたのを、最近、使用人のいる所にいて、たいへんつらいことだ。』と言って、たいそう泣く様子が、高貴で、かわいらしい人に見えて、ふっと目を覚ましたところ、この猫の声であったのが、たいそうしみじみと寂しいのである。」と語りなさるのを聞いて、私はとても寂しくなった。
いかがでしたでしょうか。
この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。
・「注4」の「来」の読みができるようにしておきましょう。
・「注8」の「なりたるなり」の最初の「なり」がラ行四段動詞で、最後の「なり」が断定の助動詞であることが分かるようにしておきましょう。
続きは以下のリンクからどうぞ。