『堤中納言物語』「このついで」の現代語訳と重要な品詞の解説5

では、「このついで」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『堤中納言物語』「このついで」の現代語訳と重要な品詞の解説4

本文

「いとさしも【注1】過ごし給はざりけむ【注2】とこそおぼゆれ【注3】。」「さても【注4】、まことなら【注5】ば、くちをしき【注6】ものづつみ【注7】なりや【注8】。」

「いづら、少将の君。」とのたまへ【注9】ば、「さかしう【注10】、ものも聞こえざりつる【注11】を。」と言ひながら、

「をばなる【注12】【注13】、東山わたりに、行ひ【注14】侍りし【注15】に、しばし慕ひて侍りしか【注16】ば、あるじの尼君の方に、いたう【注17】くちをしからぬ【注18】人々のけはひ、あまた【注19】し侍りし【注20】を、紛らはして人に忍ぶにや【注21】見え侍りし【注22】も、隔ててのけはひ【注23】いと気高う【注24】、ただ人とはおぼえ侍らざりし【注25】に、ゆかしう【注26】て、ものはかなき障子の紙の穴構へ出でて、のぞき侍りしか【注27】ば、簾に几帳添へて、清げなる【注28】法師二、三人ばかり据ゑ【注29】て、いみじく【注30】をかしげなりし【注31】人、几帳のつらに添ひ臥して、このゐたる【注32】法師近く呼びてもの言ふ。

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 さしも 副詞。意味は「そのようにも」。
2 過ごし給はざりけむ サ行四段動詞「過ごす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形+過去推量の助動詞「けむ」の終止形。意味は「過ごしなさらなかっただろう」。「給は」は尊敬語で、中納言の君に対する敬意。
3 おぼゆれ ヤ行下二段動詞「おぼゆ」の已然形。意味は「思われる」。係助詞「こそ」に呼応している。
4 さても 接続詞。意味は「それにしても」。
5 なら 断定の助動詞「なり」の未然形。
6 くちをしき シク活用の形容詞「くちをし」の連体形。意味は「感心しない・残念だ」。
7 ものづつみ 名詞。意味は「遠慮してものを言わないこと」。
8 なりや 断定の助動詞「なり」の終止形+詠嘆の終助詞「や」。意味は「であるなあ」。
9 のたまへ ハ行四段動詞「のたまふ」の已然形。意味は「おっしゃる」。「言ふ」の尊敬語。中納言の君に対する敬意。
10 さかしう シク活用の形容詞「さかし」の連用形。意味は「上手である」。「さかし」は「さかし」がウ音便化している。
11 聞こえざりつる ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「申し上げなかった」。「聞こえ」は「言ふ」の謙譲語で、話を聞いている中宮たちに対する敬意。
12 なる 断定の助動詞「なり」の連体形。
13 の

格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

14 行ひ ハ行四段動詞「行ふ」の連用形。意味は「仏道修行をする」。
15 侍りし ラ変動詞「侍り」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「おりました」。「侍り」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。
16 侍りしか ラ変動詞「侍り」の連用形+過去の助動詞「き」の已然形。「侍り」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。
17 いたう ク活用の形容詞「いたし」の連用形。意味は「ひどく・たいそう」。「いた」は「いた」がウ音便化している。
18 くちをしからぬ シク活用の形容詞「くちをし」に未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。意味は「身分が低くない」。
19 あまた 副詞。意味は「たくさん」。
20 し侍りし サ変動詞「す」の連用形+ラ変活用の補助動詞「侍り」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「しました」。「侍り」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。
21 にや

断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」「にや」の後に「あらん」が省略されている。

係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

22 見え侍りし ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形+ラ変活用の補助動詞「侍り」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「見えました」。「侍り」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。
23 の 格助詞の主格。意味は「~が。
24 気高う ク活用の形容詞「気高し」の連用形。「気高」は「気高」がウ音便化している。
25 おぼえ侍らざりし ヤ行下二段動詞「おぼゆ」の連用形+ラ変活用の補助動詞「侍り」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「思われませんでした」。「侍ら」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。
26 ゆかしう シク活用の形容詞「ゆかし」の連用形。意味は「見たい・知りたい」。「ゆかし」は「ゆかし」がウ音便化している。
27 のぞき侍りしか  カ行四段動詞「のぞく」の連用形+ラ変活用の補助動詞「侍り」の連用形+過去の助動詞「き」の已然形。意味は「のぞきました」。」。「侍り」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。
28 清げなる ナリ活用の形容動詞「清げなり」の連体形。
29 据ゑ ワ行下二段動詞「据う」の連用形。
39 いみじく シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「たいそう」。
31 をかしげなりし ナリ活用の形容動詞「をかしげなり」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「かわいらしい」。
32 ゐたる ワ行上一段動詞「ゐる」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「座っている」。

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現代語訳  

 話を聞いたある女房は、「(中納言の君様のような御方が返歌をしないで)そのように過ごしなさらなかっただろうと強く思われます。」と言い、他の女房は、「それにしても、もしそのことが本当なら、たいへん残念な遠慮の沈黙であるなあ。」と言った。
中納言の君が「さあ、次は少将の君の番よ。」とおっしゃったところ、少将の君は「中宮様に上手にものを申し上げたこともないのに」と言いながら話した。
「叔母である人が、東山の辺りで、仏道修行をしておりました時に、私がしばらく叔母に慕ってついて行っておりました。庵の主人の尼君の所に、たいそう身分が低くない人々がいる気配が、たくさんしましたのを、(それを)ごまかして、他の人に目立たないようにしているのだろうかと見えました。(その御方がいる)仕切りからの気配が、とても気品があって、普通の方とは思われませんでしたので、私はその御方を見たくて、どことなく頼りない障子の紙に穴を空けて、のぞきましたところ、簾に几帳を添えて、清らかな法師が二、三人座らせて、たいそうかわいらしい御方が、几帳のそばに添うように伏して、そこに座っている法師を近くに呼んで、何かを言いました。

いかがでしたでしょうか。

この箇所で重要な文法事項は以下の通りです。

 

・係り結びの法則の省略されている語が分かるようにしておきましょう(注21)。

・「注12」と「注28」の「なる」の違いが分かるようにしておきましょう。
 →「注12」が断定の助動詞で、「注28」が形容動詞の一部。

・敬語表現は誰に対する敬意か分かるようにしておきましょう。

続きは以下のリンクからどうぞ。

『堤中納言物語』「このついで」の現代語訳と重要な品詞の解説6

 

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