『宇治拾遺物語』「唐に卒塔婆血つくこと」の現代語訳と重要な品詞の解説2

では、「唐に卒塔婆血つくこと」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『宇治拾遺物語』「唐に卒塔婆血つくこと」の現代語訳と重要な品詞の解説1

本文

 「この女は何の心ありて、かくは苦しきにするにか【注1】。」とあやしがり【注2】て、「今日見えば、このこと問はん【注3】。」と言ひ合はせける【注4】ほどに、常のこと【注5】なれ【注6】ば、この女はふはふ【注7】登りけり【注8】。男ども女に言ふやう、「わ女【注9】は、何の心によりて、我らが涼みに来るだに【注10】、暑く苦しく大事なる【注11】道を、涼まん【注12】と思ふによりて、登り来るだにこそあれ【注13】、涼むこともなし、別にすることもなくて、卒都婆を見めぐるを事にて【注14】、日々に登り下るるこそ、あやしき【注15】女のわざ【注16】なれ【注17】。このゆゑ知らせたまへ【注18】。」と言ひけれ【注19】ば、この女、「若き主たちはげに【注20】あやしと思ひたまふらん【注21】。かくまうで来【注22】てこの卒都婆見ることは、このごろのことにしも【注23】はべらず【注24】。ものの心知り始めてよりのち、この七十余年、日ごとにかく登りて、卒都婆を見たてまつるなり【注25】。」と言へば、「そのこと【注26】あやしくはべるなり【注27】。そのゆゑ【注28】のたまへ【注29】。」と問へば、

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 にか

断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「か」。「にか」の後ろに「あるらん」などが省略されている。意味は「だろうか」。

係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

2 あやしがり ラ行四段動詞「あやしがる」の連用形。意味は「不思議に思う」。
3 問はん

ハ行四段動詞「問ふ」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「尋ねよう」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

4 言ひ合はせける サ行下二段動詞「言ひ合はす」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「相談した」。
5 常のこと 連語。意味は「いつものこと」。
6 なれ 断定の助動詞「なり」の已然形。
7 はふはふ 副詞。意味は「這うようにして」。
8 登りけり ラ行四段動詞「登る」の連用形+過去の助動詞「けり」。
9 わ女 連語。意味は「お主」。
10 来るだに カ変動詞「来(く)」の連体形+副助詞「だに」。意味は「来るだけでも」。
11 大事なる ナリ活用の形容動詞「大事なり」の連体形。
12 涼まん マ行四段動詞「涼む」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「涼もう」。
13 こそあれ 係助詞「こそ」+ラ変動詞「あり」の已然形。
14 にて

格助詞「にて」。

「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「にて」の識別の解説

15 あやしき シク活用の形容詞「あやし」の連体形。意味は「不思議だ」。
16 わざ 名詞。意味は「動作・おこない」。
17 なれ 断定の助動詞「なり」の已然形。係助詞「こそ」に呼応している。
18 知らせたまへ ラ行四段動詞「知る」の未然形+使役の助動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の命令形。意味は「知らせてください・教えてください」。「たまへ」は尊敬語で、に対する敬意。
19 言ひけれ ハ行四段動詞「言ふ」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。
20 げに 副詞。意味は「いかにも・本当に」。
21 思ひたまふらん ハ行四段動詞「思ふ」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の終止形+現在推量の助動詞「らん」の終止形。意味は「お思いになるだろう」。「たまふ」は尊敬語で、若き主たちに対する敬意。
22 まうで来 カ変動詞「まうで来(く)」の連用形。意味は「参上する・参詣する」。「来」の謙譲語で、卒塔婆に対する敬意。
23 にしも

断定の助動詞「なり」の連用形+副助詞「しも」。

「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「に」の識別の解説

24 はべらず ラ変動詞「はべり」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「ございません」。「はべら」は丁寧語で、若き主たちに対する敬意。
25 見たてまつるなり マ行上一段動詞「見る」の連用形+ラ行四段活用の補助動詞「たてまつる」の連体形+断定の助動詞「なり」の終止形。意味は「拝見(拝観)するのである」。「たてまつる」は謙譲語で、卒塔婆に対する敬意。
26 の

格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

27 あやしくはべるなり シク活用の形容詞「あやし」の連用形+ラ変動詞「はべり」の連体形+断定の助動詞「なり」の終止形。意味は「不思議でございますのである」。
28 ゆゑ 名詞。意味は「理由」。
29 のたまへ ハ行四段動詞「のたまふ」の命令形。意味は「おっしゃってください」。「言ふ」の尊敬語で、に対する敬意。

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現代語訳 

 (若者たちは)「この老女は何の目的があって、こんなに苦しいことをするのだろうか。」と不思議に思って、「今日見えたらこのことを尋ねよう。」と相談したところに、いつものことであるので、この老女が這うようにして山を登ってきた。若者たちは老女に尋ねたことには、「お主は、何の目的で、我々が涼みに来ることさえ、暑くて苦しい大変な道を、涼もうと思って、登って来るのであればともかく、涼むこともなく、別にすることもなくて、卒塔婆を見回ることだけして、毎日登り下りをするのですか。不思議な女のふるまいです。この理由を私たちに知らせてください。」と言ったところ、この老女は、「若い者たちにとっては、いかにも不思議なことだとお思いになるでしょう。このように参詣してこの卒塔婆を見ることは、最近のことではございません。物心ついた時から、この七十余年、毎日こうして登って、卒塔婆を拝見しているのであります。」と言ったところ、(若者たちは)「そのことが不思議でございます。その理由をおっしゃってください。」と言った(ところ)。

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

・敬語表現は誰に対する敬意かが分かるようにしておきましょう。
 (注18・21・22・24・25・29)

・係り結びの省略は省略された語が補えるようにしておきましょう。

続きは以下のリンクからどうぞ。

『宇治拾遺物語』「唐に卒塔婆血つくこと」の現代語訳と重要な品詞の解説3

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