『うたたね』「出家の決意」の現代語訳と重要な品詞の解説1

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。

  
ごめんください。
こちら吉良殿の
ご自宅でございますか?
  
  

  

えっ?違いますよ。
私は倉橋です。

  
  

  

失礼致しました。
この辺に吉良殿のお家が、
あるのですが、知りませんか?

  

  

知りませんねえー。
この近所で吉良さんって
聞いたことないですよ。

  
  

  

そうですかぁ…。
これで3000軒目…。
全然見つからない…。

  
  

  

すごっ!大変ですねー。
どうしてそんなに
探しているんですか?

  

  

いや、実は私、
吉良殿の所に
討ち入りに行こうと
思っていまして…。

  

  

討ち入り!?
そんな物騒なことを!!
でも討ち入りするのに、
人に尋ねちゃダメでしょ。

  

  

えっ?
なんで?

  
  

  

だって、自分の所に
討ち入りに来るんだったら、
自分が吉良だって
絶対言わないでしょ。

  

  

やべっ!!そうだった!!
いや~。失敗したー。

  
  

  

3000軒も尋ねているん
だから、もしかしたら、
その中に本物の吉良さん
いるんじゃないですか?

  

  

そうかも!!ということは、
あなたが吉良殿ということで
よろしいですよね?
これから討ち入りしまーす。

  

  

なんでそうなるの?
私は藩校で古典の講義をする
しがない下級武士ですよ。

  
  

  

古典?
確か、吉良殿も文学部出身で
古典が好きだったような…。
そうなるとやはりあなたが!

  
  

  

もう論理めちゃくちゃ。
どうしたら、吉良さん
じゃないって、
分かってもらえます?

  

講義してください。
吉良殿は手が綺麗な女性が
好きなので、それ以外の話を
お願いします。

  
  

  

???
よく分かりませんが、
まあ、とりあえず、
古典の講義しましょう。

  

本文

 春ののどやかなる【注1】に、何となく積もりにける【注2】手習ひの反故【注3】など破り返すついでに、かの御文【注4】どもを取り出でて見れば、梅が枝の色づきそめし【注5】初めより、冬草枯れ果つるまで、折々のあはれ【注6】忍びがたき【注7】節々を、うちとけ【注8】聞こえ交はしける【注9】こと【注10】積もりにけるほども、今はと見るはあはれ浅からぬ【注11】中に、いつぞや【注12】、常よりも目とどまりぬらんかし【注13】とおぼゆるほどに、こなたのあるじ【注14】、「今宵はいとさびしくもの恐ろしき心地するに、ここに臥し給へ【注15】。」とて、わが方へも帰らずなりぬ【注16】あな【注17】むつかし【注18】とおぼゆれど、せめて【注19】心の鬼【注20】も恐ろしければ、「帰りなん【注21】。」とも言はで【注22】臥しぬ【注23】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 のどやかなる ナリ活用の形容動詞「のどやかなり」の連体形。
2 積もりにける ラ行四段動詞「積もる」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「積もってしまった」。
3 手習ひの反故 連語。意味は「習字の書き損じ」。
4 かの御文 連語。作者の恋人からの手紙のこと。
5 色づきそめし マ行下二段動詞「色づきそむ」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「色づき始めた」。
6 あはれ 名詞。意味は「寂しさ・悲哀」。
7 忍びがたき ク活用の形容詞「忍びがたし」の連体形。意味は「耐え難い」。
8 うちとけ カ行下二段動詞「うちとく」の連用形。意味は「なれ親しむ」。
9 聞こえ交はしける サ行四段動詞「聞こえ交はす」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「手紙のやり取りを差し上げなさった」。「聞こえ交はし」は謙譲語で、恋人に対する敬意。
10 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

11 浅からぬ ク活用の形容詞「浅し」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。意味は「浅くない」。
12 いつぞや 代名詞「いつ」+念押しの終助詞「ぞ」+係助詞「や」。意味は「いつだったろうか」。「や」の後に「あらん」が省略されている。

係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

13 とどまりぬらんかし ラ行四段動詞「とどまる」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の終止形+現在の原因推量の助動詞「らん」の終止形+念押しの終助詞「かし」。意味は「止まってしまうのだろうよ」。
14 こなたのあるじ 連語。意味は「こちらの部屋の女房」。
15 臥し給へ サ行四段動詞「臥す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の命令形。意味は「お休みになってください」。「給へ」は尊敬語で、作者に対する敬意。
16 帰らずなりぬ ラ行四段動詞「帰る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形+ラ行四段動詞「なる」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の終止形。意味は「帰らないことになってしまった」。
17 あな 感動詞。意味は「ああ」。
18 むつかし シク活用の形容詞「むつかし」の終止形。意味は「面倒だ」。
19 せめて 副詞。意味は「きわめて」。
20 心の鬼 連語。意味は「心をよぎる不安や恐れ」。
21 帰りなん ラ行四段動詞「帰る」の連用形+確述(強意)の助動詞「ぬ」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「帰ろう」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

22 言はで ハ行四段動詞「言ふ」の未然形+打消の接続助詞「で」。意味は「言わないで」。
23 臥しぬ サ行四段動詞「臥す」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の終止形。意味は「横になってしまった」

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現代語訳

 春ののどかな日に、何となく積もり上がってしまった習字の書き損じなどを破り捨てるついでに、あの方からのお手紙を取り出して見てみると、(去年の)梅の枝(のつぼみ)が色づき始めた初めから、冬の草が枯れ果てるまでの、その時々の寂しさの耐え難い場面場面を、なれ親しんで手紙のやり取りを差し上げなさったことが(手紙の中に)積もっていた状態でも(あったが)、今日(で最後)と思って見る悲哀も浅くない中、(この手紙は)いつ(頃)だったろうか(などと)、いつもよりも目に止まってしまうのだろうことよと思われるうちに、こちらの部屋の女房が、「今夜はとてもさびしくてなんとなく恐ろしい気持ちがするので、(貴方も)こちらでお休みになってください。」と言って、自分の部屋に帰らないことになってしまった。「ああ面倒だ」と思われたけれど、きわめて心をよぎる不安が恐ろしいので、「(部屋に)帰ろう。」とも言わないで、横になってしまった。
  

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・敬語表現は誰に対する敬意か分かるようにしておきましょう。
(注9→恋人に対する敬意、注15→作者に対する敬意。)

・注12・13は重要表現ですので、品詞分解と現代語訳ができるようにしておきましょう。

・助動詞がセットになっている所(注2・13・21)は助動詞の意味が分かるようにしておきましょう。

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『うたたね』「出家の決意」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  

【唐来参和作栄松斎長喜画『家内手本用心蔵』(寛政十年刊)を参考に挿入画を作成】

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