では、「出家の決意」の前回の続きの文章を見ていきましょう。
前回の解説はこちら。
本文
人はみな何心なく寝入りぬる【注1】ほどに、やをら【注2】滑り出づれ【注3】ば、灯火の【注4】残りて心細き光なる【注5】に、人やおどろかん【注6】とゆゆしく【注7】恐ろしけれど、ただ障子一重を隔てたる【注8】居所なれ【注9】ば、昼より用意しつる【注10】鋏【注11】、箱の蓋などの【注12】、ほどなく【注13】手にさはるもいとうれしくて、髪を引き分くるほどぞ、さすが【注14】そぞろ【注15】恐ろしかりける【注16】。削ぎ落としぬれ【注17】ば、この蓋にうち入れて、書き置きつる【注18】文なども取り具して置かん【注19】とするほど、出でつる【注20】障子口より、火の光の【注21】なほ【注22】ほのかに見ゆるに、文書きつくる硯の【注23】、蓋もせで【注24】ありける【注25】が、かたはらに見ゆるを引き寄せて、削ぎ落としたる【注26】髪をおし包みたる【注27】陸奥国紙のかたはらに、ただうち思ふことを書きつくれど、外なる【注28】灯火の光なれ【注29】ば、筆の立ち所【注30】も見えず【注31】。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 寝入りぬる | ラ行四段動詞「寝入る」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連体形。意味は「熟睡した」。 |
2 やをら | 副詞。意味は「静かに」。 |
3 滑り出づれ | ダ行下二段動詞「滑り出づ」の已然形。意味は「こっそり抜け出す」。 |
4 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。
「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
5 なる | 断定の助動詞「なり」の連体形。 |
6 おどろかん | カ行四段動詞「おどろく」の未然形+推量の助動詞「ん」の連体形。意味は「目を覚ますだろう」。「ん」は係助詞「や」に呼応している。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
7 ゆゆしく | シク活用の形容詞「ゆゆし」の連用形。意味は「たいへん」。 |
8 隔てたる | タ行下二段動詞「隔つ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「隔てている」。 |
9 なれ | 断定の助動詞「なり」の已然形。 |
10 しつる | サ変動詞「す」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「した」。 |
11 鋏 | 名詞。読みは「はさみ」。 |
12 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。 |
13 ほどなく | ク活用の形容詞「ほどなし」の連用形。意味は「まもなく」。 |
14 さすが | 副詞。意味は「そうはいうものの」。 |
15 そぞろ | 副詞。意味は「なんとなく」。 |
16 恐ろしかりける | シク活用の形容詞「恐ろし」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「恐ろしかった」。「ける」は係助詞「ぞ」に呼応している。
係り結びの法則については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
17 削ぎ落としぬれ | サ行四段動詞「削ぎ落す」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の已然形。意味は「切り落してしまう」。 |
18 書き置きつる | カ行四段動詞「書き置く」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「書き置いた」。 |
19 置かん | カ行四段動詞「置く」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「置こう」。 |
20 出でつる | ダ行下二段動詞「出づ」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「出た」。 |
21 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。 |
22 なほ | 副詞。意味は「依然として」。 |
23 の | 格助詞の同格。意味は「~で」。 |
24 せで | サ変動詞「す」の未然形+打消の接続助詞「で」。意味は「しないで」。 |
25 ありける | ラ変動詞「あり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「あった」。 |
26 削ぎ落としたる | サ行四段動詞「削ぎ落す」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形。意味は「切り落した」。 |
27 おし包みたる | マ行四段動詞「おし包む」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「包み隠している」。 |
28 なる | 存続の助動詞「なり」の連体形。意味は「~にある」。 |
29 なれ | 断定の助動詞「なり」の已然形。 |
30 筆の立ち所 | 連語。意味は「文字の書いた所」。 |
31 見えず | ヤ行下二段動詞「見ゆ」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「見えない」。 |
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現代語訳
いかがでしたでしょうか。
この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。
・格助詞の「の」の識別ができるようにしておきましょう。
(注4・12・21は主格、注23は同格、その他の「の」は連体修飾格)
・注6を含む「人やおどろかん」の文章は重要表現ですので、現代語訳ができるようにしておきましょう。
続きは以下のリンクからどうぞ。