『源氏物語』「若紫との出会い」の現代語訳と重要な品詞の解説3

  

では、「若紫との出会い」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

  

『源氏物語』「若紫との出会い」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  
  

本文

 このゐたる【注1】大人、「例の【注2】心なし【注3】【注4】、かかるわざをしてさいなまるる【注5】こそ、いと心づきなけれ【注6】いづ方【注7】へかまかりぬる【注8】。いとをかしう【注9】やうやう【注10】なりつる【注11】ものを。烏などもこそ【注12】見つくれ【注13】。」とて、立ちて行く。髪ゆるるかに【注14】いと長く、めやすき【注15】なめり【注16】少納言の乳母【注17】とぞ人言ふめる【注18】は、この子の後見【注19】なるべし【注20】
 尼君、「いで【注21】あな【注22】をさなや【注23】言ふかひなう【注24】ものし給ふかな【注25】。おのが、かく今日明日におぼゆる【注26】命をば、何ともおぼしたらで【注27】、雀慕ひ給ふ【注28】ほどよ。罪得る【注29】ことぞと、常に聞こゆる【注30】を、心憂く【注31】。」とて、「こちや。」と言へば、ついゐたり【注32】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 ゐたる ワ行上一段動詞「ゐる」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「座っている」。
2 例の 連語。意味は「いつもの」。
3 心なし 名詞。意味は「不注意者」。
4 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

5 さいなまるる マ行四段動詞「さいなむ」の未然形+受身の助動詞「る」の連体形。意味は「しかられる」。
6 心づきなけれ ク活用の形容詞「心づきなし」已然形。意味は「気にくわない」。「心づきなけれ」は、係助詞「こそ」に呼応している。
7 いづ方 代名詞。意味は「どちら」。
8 まかりぬる ラ行四段動詞「まかる」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連体形。意味は「参ってしまった」。「まかり」は、「行く」の丁寧語。「ぬる」は、係助詞「か」に呼応している。
9 をかしう シク活用の形容詞「をかし」の連用形。意味は「かわいらしい」。「をかし」は、「をかし」がウ音便化している。
10 やうやう 副詞。意味は「だんだん」。
11 なりつる ラ行四段動詞「なる」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「なってきた」。
12 もこそ 係助詞「も」+係助詞「こそ」。意味は「~したら大変だ」。
13 見つくれ カ行下二段動詞「見つく」の已然形。意味は「見つける」。「見つくれ」は、係助詞「こそ」に呼応している。
14 ゆるるかに ナリ活用の形容動詞「ゆるるかなり」の連用形。意味は「たっぷりあるさま・たくさんあるさま」。
15 めやすき ク活用の形容詞「めやすし」の連体形。意味は「感じがよい」。
16 なめり  断定の助動詞「なり」の連体形+推定の助動詞「めり」の終止形。意味は「~であるようだ」。元々「なめり」であったものが、「なめり」と撥音便化し、「なめり」という表記になった。
17 少納言の乳母 名詞。若紫の乳母。
18 言ふめる ハ行四段動詞「言ふ」の終止形+婉曲の助動詞「めり」の連体形。意味は「言うようだ」。
19 後見 名詞。意味は「世話人・後見人」。
20 なるべし

断定の助動詞「なり」の連体形+推量の助動詞「べし」の終止形。意味は「~であるにちがいない」。

「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「べし」の識別の解説

21 いで 感動詞。意味は「いやもう」。
22 あな 感動詞。意味は「まあ」。
23 をさなや ク活用の形容詞「をさなし」の語幹+間投助詞「や」。意味は「幼いことよ」。
24 言ふかひなう ク活用の形容詞「言ふかひなし」の連用形。意味は「わきまえがない」。「言ふかひなう」は、「言ふかひなく」がウ音便化している。
25 ものし給ふかな サ変動詞「ものす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連体形+詠嘆の終助詞「かな」。意味は「いらっしゃるなあ」。「給ふ」は尊敬語で、若紫に対する敬意。
26 おぼゆる ヤ行下二段動詞「おぼゆ」の連体形。
27 おぼしたらで サ行四段動詞「おぼす」の連用形+完了の助動詞「たり」の未然形+打消の接続助詞「で」。意味は「お思いにならないで」。「おぼし」は「思ふ」の尊敬語で、若紫に対する敬意。
28 慕ひ給ふ ハ行四段動詞「慕ふ」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連体形。意味は「慕いなさる」。「給ふ」は尊敬語で、若紫に対する敬意。
29 得る ア行下二段動詞「得(う)」の連体形。読みは「うる」。
30 聞こゆる ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の連体形。意味は「申し上げる」。「聞こゆる」は「言ふ」の謙譲語で、若紫に対する敬意。
31 心憂く ク活用の形容詞「心憂し」の連用形。意味は「嘆かわしい」。
32 ついゐたり ワ行上一段動詞「ついゐる」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。意味は「かしこまって座った」。

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現代語訳 

 この座っている年輩の女房が、「いつもの、不注意者が、このようなことをして、しかられるのは、とても気にくわないわ。(雀の子は)どこへ参ってしまったのでしょうか。とてもかわいらしく、だんだんなってきていたのに。烏などが見つけたら大変だわ。」と言って、立って行く。髪はたくさんあってとても長く、感じがよい人であるようだ。少納言の乳母と人々が言っているようだが、きっとこの子(若紫)の世話人であるにちがいない。
 尼君が、「いやもう、まあ幼いことよ。わきまえがなくいらっしゃるなあ。私が、このように今日明日と思われる命なのを、(あなたは)何ともお思いにならないで、雀を慕いなさることよ。(生き物をいじめるのは)罪を得ることですよと、いつも申し上げているのに、嘆かわしいことだ。」と言って、「こっちへいらっしゃい。」と言うと、(若紫は)かしこまって座った。

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・注16「なめり」は品詞分解、元の形が分かるようにしておきましょう。

・注8、注12と注13のセットは、重要表現ですので、訳せるようにしておきましょう。

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『源氏物語』「若紫との出会い」の現代語訳と重要な品詞の解説4

  

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