『堤中納言物語』「このついで」の現代語訳と重要な品詞の解説6

では、「このついで」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『堤中納言物語』「このついで」の現代語訳と重要な品詞の解説5

本文 

 何事ならむ【注1】と、聞きわくべき【注2】ほどにも【注3】あらね【注4】ど、尼にならむ【注5】と語らふけしき【注6】にや【注7】見ゆる【注8】に、法師やすらふ【注9】けしきなれ【注10】ど、なほなほ【注11】せちに【注12】言ふめれ【注13】ば、さらばとて、几帳のほころびより、櫛の箱の蓋に、丈に一尺ばかり余りたる【注14】にや【注15】と見ゆる髪【注16】、筋、裾つき、いみじう【注17】うつくしき【注18】を、わげ入れ【注19】て押し出だす。かたはらに、いま少し若やかなる【注20】人の、十四、五ばかりにや【注21】とぞ見ゆる、髪、丈に四、五寸ばかり余りて見ゆる、薄色【注22】こまやかなる【注23】一襲【注24】搔練【注25】など引き重ねて、顔に袖をおしあてて、いみじう泣く、おとと【注26】なるべし【注27】とぞおしはかられ侍りし【注28】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 ならむ

断定の助動詞「なり」の未然形+推量の助動詞「む」の連体形。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

2 聞きわくべき カ行四段動詞「聞きわく」の終止形+可能の助動詞「べし」の連体形。意味は「聞き分けることができる」。
3 にも 断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「も」。
4 あらね ラ変動詞「あり」の未然形+打消の助動詞「ず」の已然形。
5 ならむ ラ行四段動詞「なる」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「なろう」。
6 けしき 名詞。意味は「様子」。
7 にや

断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」。「にや」の後に「あらん」が省略されている。

係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

8 見ゆる ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連体形。
9 やすらふ ハ行四段動詞「やすらふ」の連体形。意味は「ためらう」。
10 なれ 断定の助動詞「なり」の已然形。
11 なほなほ 副詞。意味は「ますます」。
12 せちに ナリ活用の形容動詞「せちなり」の連用形。意味は「しきりに」。
13 言ふめれ ハ行四段動詞「言ふ」の終止形+推定の助動詞「めり」の已然形。意味は「言うようだ」。
14 余りたる ラ行四段動詞「余る」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「余っている」。
15 にや 断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」。「にや」の後に「あらん」が省略されている。
16 の

格助詞の同格。意味は「~で」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

17 いみじう シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「たいそう」。「いみじう」は「いみじく」がウ音便化している。
18 うつくしき シク活用の形容詞「うつくし」の連体形。
19 わげ入れ ラ行下二段動詞「わげ入る」の連用形。意味は「曲げ入れる」。
20 若やかなる ナリ活用の形容動詞「若やかなる」の連体形。
21 にや 断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」。「にや」の後に「あらん」が省略されている。
22 の 格助詞の同格。意味は「~で」。
23 こまやかなる ナリ活用の形容動詞「こまやかなり」の連体形。
24 一襲 名詞。重ねた衣服のこと。
25 搔練 名詞。紅色の襲のこと。
26 おとと 名詞。男女にかかわらず年下の者のこと。
27 なるべし

断定の助動詞「なり」の連体形+推量の助動詞「べし」の終止形。意味は「~であるにちがいない」。

「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「べし」の識別の解説

28 おしはかられ侍りし ラ行四段動詞「おしはかる」の未然形+自発の助動詞「る」の連用形+ラ変活用の補助動詞「侍り」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「推察されました」。「侍り」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。「し」は係助詞「ぞ」に呼応している。

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現代語訳  

 「何事であろうか」と思って、聞き分けることができるぐらいでもありませんが、(どうやらその御方は)尼になろうと語っているようであろうかと見えました。しかし、法師はためらう様子でしたが、その御方はますますしきりに尼になることを言うようで、法師は「それならば」と、几帳の隙間から櫛笥の蓋や、背丈に一尺ぐらい余っているだろうかと見える髪で、筋や裾の具合といいたいそう美しいのを曲げ入れて、押し出しています。そばには少し若い人で、十四、十五歳ぐらいであろうかと見える人がいて、髪は背丈に四、五寸ぐらい余っているのが見えて、薄色で細やかな襲に紅の搔練を重ね着していて、顔に袖を押し当てて、たいそう泣いて、おそらく妹君であるにちがいないと推察されました。

いかがでしたでしょうか。

この箇所で重要な文法事項は以下の通りです。

 

・係り結びの法則の省略されている語が分かるようにしておきましょう(注7・15・21)。

・「注1」と「注5」の「なら」と「む」の違い分かるようにしておきましょう。
 →「注1」の「なら」は断定の助動詞で、「注5」の「なら」はラ行四段動詞
 →「注1」の「む」は推量の助動詞で、「注5」の「む」は意志の助動詞

・格助詞の同格が分かるようにしておきましょう(注16・22)。

続きは以下のリンクからどうぞ。

『堤中納言物語』「このついで」の現代語訳と重要な品詞の解説7

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