
喧嘩の声がする…。


この野郎ー!
絶対許さないぞー!

いいや。だめだ。
絶対に許さん。

落ち着いて下さい。
何があったのか、
教えてくれませんか?

割り込んで入って
来たんだよ!


距離を空けてたんだよ。
お前からうつったら
どうすんだよ。

そんな密着して喧嘩したら、
余計感染するんじゃないですか?


なった方がいいですよ。

過剰になりすぎですよ。
離れて下さい。


お侍さん、先生でしょ?

本文
これも今は昔、忠明といふ検非違使【注1】ありけり【注2】。それが若かりける【注3】時、清水【注4】の橋のもとにて【注5】京童部ども【注6】といさかひ【注7】をしけり【注8】。京童部手ごと【注9】に刀を抜きて、忠明を立てこめ【注10】て殺さん【注11】としけれ【注12】ば、忠明も太刀を抜い【注13】て、御堂ざま【注14】に上るに、御堂の東のつま【注15】にも、あまた【注16】立ちて向かひ合ひたれ【注17】ば、内へ逃げ【注18】て、蔀【注19】のもとを脇に挟みて前の谷へ躍り落つ【注20】。蔀、風にしぶかれ【注21】て、谷の底に、鳥の【注22】ゐるやうに【注23】やをら【注24】落ちにけれ【注25】ば、それより逃げて往にけり【注26】。京童部ども谷を見おろして、あさましがり【注27】、立ち並みて見けれ【注28】ども、すべき【注29】やうもなく【注30】て、やみにけり【注31】となん【注32】。
重要な品詞と語句の解説
| 語句【注】 | 品詞と意味 |
| 1 検非違使 | 名詞。平安時代に創設された京都の犯罪や風俗を取り締まる役職。 |
| 2 ありけり | ラ変動詞「あり」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「いた」。 |
| 3 若かりける | ク活用の形容詞「若し」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「若かった」。 |
| 4 清水 | 名詞。清水寺のこと。 |
| 5 にて | 格助詞。場所を表す。
「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
| 6 京童部ども | 名詞。京都の無頼の若者たちのこと。 |
| 7 いさかひ | 名詞。意味は「喧嘩」。 |
| 8 しけり | サ変動詞「す」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「した」。 |
| 9 手ごと | 名詞。意味は「各々の手」。 |
| 10 立てこめ | マ行下二段動詞「立てこむ」の連用形。意味は「取り囲む」。 |
| 11 殺さん | サ行四段動詞「殺す」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「殺そう」。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
| 12 しけれ | サ変動詞「す」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。 |
| 13 抜い | カ行四段動詞「抜く」の連用形。「抜い」は「抜き」がイ音便化したもの。 |
| 14 御堂ざま | 連語。意味は「本堂の方」。 |
| 15 つま | 名詞。意味は「軒端」。 |
| 16 あまた | 副詞。意味は「たくさん」。 |
| 17 向かひ合ひたれ | ハ行四段動詞「向かひ合ふ」の連用形+完了の助動詞「たり」の已然形。意味は「向かい合った」。 |
| 18 逃げ | ガ行下二段動詞「逃ぐ」の連用形。 |
| 19 蔀 | 名詞。格子を取り付けた坂戸のこと。 |
| 20 躍り落つ | タ行上二段動詞「躍り落つ」の終止形。意味は「飛び落ちる」。 |
| 21 しぶかれ | カ行四段動詞「しぶく」の未然形+受身の助動詞「る」の連用形。意味は「激しく吹き付けられる」。 |
| 22 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。
「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
| 23 ゐるやうに | ワ行上一段動詞「ゐる」の連体形+比況の助動詞「やうなり」の連用形。意味は「とまっているようだ」。 |
| 24 やをら | 副詞。意味は「静かに」。 |
| 25 落ちにけれ | タ行上二段動詞「落つ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」已然形。意味は「落ちてしまった」。 |
| 26 往にけり | ナ変動詞「往ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「行ってしまった」。 |
| 27 あさましがり | ラ行四段動詞「あさましがる」の連用形。意味は「びっくりする」。 |
| 28 見けれ | マ行上一段動詞「見る」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「見た」。 |
| 29 すべき | サ変動詞「す」の終止形+可能の助動詞「べし」の連体形。意味は「することができる」。
「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
| 30 なく | ク活用の形容詞「なし」の連用形。 |
| 31 やみにけり | マ行四段動詞「やむ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「終わってしまった」。 |
| 32 なん | 係助詞。「なん」の後に「言ふ」などが省略されている。
係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
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現代語訳

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。
・注11「ん」・注21「れ」・注29「べき」は助動詞の意味が分かるようにしておきましょう。
・注32「なん」の後に省略されている語(言ふ)が補えるようにしておきましょう。
・注26と注31にある「にけり」の「に」の意味の違いが分かるようにしておきましょう。
(注26の「に」→動詞の一部。注31の「に」→完了の助動詞)



京都に行きたくなって



【曲亭馬琴作北尾重政画『曲亭一風京伝張』(享和元年刊)を参考に挿入画を作成】

