『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説4

この記事で解決できること
・格助詞「の」が分かります。
・助動詞の種類と活用が分かります。
・敬語表現が分かります。
・定期試験でよく聞かれる所が分かります。

  

では、「木曽の最期」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

  

『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説3

  
  

「木曽の最期」本文

 「君はあの松原へ入らせたまへ【注1】。兼平はこの敵防ぎ候はん【注2】。」と申しけれ【注3】ば、木曾殿のたまひける【注4】は、「義仲、都にていかに【注5】なるべかりつる【注6】が、これまで逃れ来るは、【注7】と一所で死なん【注8】と思ふためなり【注9】。所々で討たれん【注10】よりも、ひと所でこそ討死をもせめ【注11】。」とて、馬の鼻を並べて駆けん【注12】したまへ【注13】ば、今井四郎、馬より飛び降り、主の馬の口に取りついて【注14】申しける【注15】は、「弓矢取り【注16】は、年ごろ日ごろいかなる【注17】高名【注18】候へ【注19】ども、最後の時不覚しつれ【注20】ば、長ききず【注21】にて【注22】候ふなり【注23】。御身は疲れさせたまひて候ふ【注24】続く勢【注25】候はず【注26】。敵に押し隔てられ【注27】いふかひなき【注28】人の郎等【注29】組み落とされさせたまひ【注30】て、討たれさせたまひなば【注31】、『さばかり【注32】日本国に聞こえさせたまひつる【注33】木曾殿をば、それがし【注34】が郎等【注35】討ち奉つたる【注36】。』なんど申さん【注37】ことこそ口惜しう候へ【注38】。ただあの松原へ入らせたまへ【注39】。」と申しけれ【注40】ば、木曾、「さらば。」とて、粟津の松原へぞ駆けたまふ【注41】

「木曽の最期」重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 入らせたまへ ラ行四段動詞「入る」の未然形+尊敬の助動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の命令形。意味は「お入りになって下さい」。「せたまへ」は二重尊敬で、木曾義仲に対する敬意。

会話文の敬意の方向(誰から誰に)については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の敬意の方向(誰から誰に)の解説

2 防ぎ候はん ガ行四段動詞「防ぐ」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「候ふ」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「防ぎましょう」。「候は」は丁寧語で、木曾義仲に対する敬意。
3 申しけれ サ行四段動詞「申す」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「申し上げた」。「申し」は謙譲語で、木曽義仲に対する敬意。
4 のたまひける ハ行四段動詞「のたまふ」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「おっしゃった」。「のたまひ」は尊敬語で、木曽義仲に対する敬意。

「のたまふ」については、以下のページで詳しく解説をしているので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の重要な尊敬語の意味と解説(召す・のたまふ・おはす・おぼす)

5 いかに 副詞。意味は「どのように」。
6 なるべかりつる ラ行四段動詞「なる」の終止形+当然の助動詞「べし」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「なるはずであった」。

「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「べし」の識別の解説

7 汝 名詞。意味は「お前」。
8 死なん ナ変動詞「死ぬ」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「死のう」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

9 なり 断定の助動詞「なり」の終止形。
10 討たれん タ行四段動詞「討つ」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「討たれるような」。「ん」の後に「こと」が省略されている。
11 せめ サ変動詞「す」の未然形+意志の助動詞「ん」の已然形。意味は「しよう」。「め」は係助詞「こそ」に呼応している。

係り結びの法則については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの法則の解説

12 駆けん カ行下二段動詞「駆く」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「駆けよう」。
13 したまへ サ変動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の已然形。意味は「しなさる」。「たまへ」は尊敬語で、木曾義仲に対する敬意。
14 取りついて カ行四段動詞「取りつく」の連用形+接続助詞「て」。「取りつ」は「取りつ」がイ音便化している。
15 申しける サ行四段動詞「申す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「申し上げた」。「申し」は謙譲語で、木曽義仲に対する敬意。
16 弓矢取り 名詞。武士のこと。
17 いかなる ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連体形。意味は「どのような」。
18 高名 名詞。意味は「高い名声・功名」。
19 候へ ハ行四段動詞「候ふ」の已然形。意味は「ございます」。丁寧語で、木曾義仲に対する敬意。
20 しつれ サ変動詞「す」の連用形+完了の助動詞「つ」の已然形。
21 長ききず 連語。末代までの汚名のこと。
22 にて 断定の助動詞「なり」の連用形+接続助詞「て」。

「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「にて」の識別の解説

23 候ふなり ハ行四段動詞「候ふ」の連体形+断定の助動詞「なり」の終止形。
24 疲れさせたまひて候ふ。 ラ行下二段動詞「疲る」の未然形+尊敬の助動詞「さす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の連用形+接続助詞「て」+ハ行四段活用の補助動詞「候ふ」の終止形。意味は「お疲れになっております」。「させたまひ」は二重尊敬で、木曾義仲に対する敬意。「候ふ」は丁寧語で、木曾義仲に対する敬意。
25 続く勢 連語。意味は「後に続く味方の軍勢」。
26 候はず ハ行四段動詞「候ふ」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。
27 押し隔てられ ダ行下二段動詞「押し隔つ」の未然形+受身の助動詞「らる」の連用形。意味は「押されて分けられて」。
28 いふかひなき ク活用の形容詞「いふかひなし」の連体形。意味は「取るに足らない」。
29 郎等 名詞。意味は「家来」。
30 組み落とされさせたまひ サ行四段動詞「組み落とす」の未然形+受身の助動詞「る」の未然形+尊敬の助動詞「さす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の連用形。意味は「組んで落とされなさる」。「させたまひ」は二重尊敬で、木曾義仲に対する敬意。
31 討たれさせたまひなば タ行四段動詞「討つ」の未然形+受身の助動詞「る」の未然形+尊敬の助動詞「さす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の未然形+接続助詞「ば」。意味は「討たれなさったならば」。「させたまひ」は二重尊敬で、木曾義仲に対する敬意。
32 さばかり 副詞。意味は「あれ程」。
33 聞こえさせたまひつる ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の連用形+尊敬の助動詞「さす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「聞こえなさった」。「させたまひ」は二重尊敬で、郎等から木曾義仲に対する敬意。
34 それがし 名詞。意味は「何々」。
35 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

36 討ち奉つたる タ行四段動詞「討つ」の連用形+ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形。意味は「討ち差し上げた」。「奉つ」は謙譲語で、郎等から木曾義仲に対する敬意。「奉」は「奉」が促音便化している。
37 申さん サ行四段動詞「申す」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「申し上げるような」。「申さ」は謙譲語で、木曾義仲に対する敬意。
38 口惜しう候へ シク活用形容詞「口惜し」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「候ふ」の已然形。意味は「残念でございます」。「口惜し」は「口惜し」がウ音便化している。「候へ」は係助詞「こそ」に呼応している。「候へ」は丁寧語で、木曾義仲に対する敬意。
39 入らせたまへ ラ行四段動詞「入る」の未然形+尊敬の助動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の命令形。意味は「お入りになって下さい」。「せたまへ」は二重尊敬で、木曾義仲に対する敬意。
40 申しけれ サ行四段動詞「申す」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「申し上げた」。「申し」は謙譲語で、木曽義仲に対する敬意。
41 駆けたまふ カ行下二段動詞「駆く」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の終止形。意味は「駆けなさる」。「たまふ」は尊敬語で、木曾義仲に対する敬意。

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「木曽の最期」現代語訳

 「義仲様はあの松原へお入りになって下さい。私、兼平がこの敵を防ぎましょう。」と申し上げると、木曾殿がおっしゃることには、「この義仲は、都でどのようにもなるはずであったが、ここまで逃れてきたのは、お前と同じ所で死のうと思うためである。別々の所で討たれるようなことよりも、同じ所で討死をしよう。」と言い、馬の向きをそろえて駆けようとしなさったところ、今井四郎が馬から飛び降り、主君の馬のくつわに取りついて申し上げたことは、「武士たる者は、常日頃どのような高い名声がございましても、最期の時に失敗をしてしまうと、末代までの汚名でございます。(義仲様の)お体はお疲れになっております。後に続く味方の軍勢はございません。敵に、押されて分けられて、取るに足らない武将の家来に組んで落とされなさって、討たれなさったならば、『あれ程日本国で武勇で聞こえなさった木曽殿を、何々の家来が討ち差し上げたぞ。』などと、申されるようなことは残念でございます。ただただ、あの松原へお入りになって下さい。」と申し上げたので、木曾殿は、「さらば。」と言って、粟津の松原へ向けて駆けなさる。
  

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・音便は種類と元の形が分かるようにしておきましょう。

・敬語表現は種類が分かるようにしておきましょう。

・会話文の中にある敬語表現はすべて今井四郎から木曽義仲に対する敬意なので、分かるようにしておきましょう。

・二重カギカッコの中にある敬語表現はすべて郎等から木曾義仲に対する敬意なので、分かるようにしておきましょう。

・助動詞「ん」の識別が分かるようにしておきましょう。

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説5

  

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