『源氏物語』「薫と宇治の姫君」の現代語訳と重要な品詞の解説1

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
 
 
ん?
だれか来る。
 
 
 
 
 
 
 
  すいません。ちょっと道を
お尋ねしたいのですが
宇治はこちらの道で
よろしいでしょうか?
 
  
 
えっ?宇治って
京都の宇治ですか?
 
 
  
  
  
  
そうです。京都の宇治です。
私が慕う姫君がいるんです。
 
  
 
…。ここ、
江戸ですよ…。
方向は合ってますが、
京都まで時間かかりますよ。
 
 
  
大丈夫です。
新幹線で行きますから。
N700S」に乗って
向かいます!
 
  
 
……。
一応、この世界、
江戸時代設定
なんですけど…。
 
 
  
申し訳ございません。
設定無視しちゃって。
あと私、光源氏の息子の
「薫」の設定なんですけど
それもいいですか?
 
  
 
……。
まあいいでしょう。
ないまぜ」なのが、
江戸文学の特徴ですから。
 
 
※「ないまぜ」とは、歌舞伎や草双紙などで、二つ以上の世界を混ぜて作品を作る手法のことです。 
 
  
あと、新幹線の
「N700S」もまだ
運行してないんですけど
それもいいですか?
 
 
※「N700S」は、2020年7月1日運行予定です。 
 
  
 
もう設定、ごちゃごちゃ。
なんでもいいですよー。
諦めます…。
 
 
 
  
最後に、『源氏物語』の
「薫と宇治の姫君」の
講義してもらっても
いいですか?
 
  
 
はいはい。
分かりましたよ。
やりますよ。
 
 
 
 

本文

 近くなる【注1】ほどに、その琴とも聞き分かれぬ【注2】ものの音ども、いとすごげに【注3】聞こゆ【注4】。常にかく遊び給ふ【注5】と聞くを、ついで【注6】なくて、親王の御琴の音【注7】名高きも、え聞かぬぞかし【注8】、よき折なるべし【注9】と、思ひつつ入り給へ【注10】ば、琵琶の声の響きなりけり【注11】黄鐘調【注12】調べ【注13】て、世の常【注14】かきあはせ【注15】なれ【注16】ど、所から【注17】にや【注18】耳慣れぬ【注19】心地して、かき返す【注20】撥の音も、もの清げに【注21】おもしろし【注22】箏の琴【注23】あはれに【注24】なまめいたる【注25】声して、絶え絶え【注26】聞こゆ。

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 なる ラ行四段動詞「なる」の連体形。
2 聞き分かれぬ カ行四段動詞「聞き分く」の未然形+可能の助動詞「る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。意味は「聞き分けられない」。
3 すごげに ナリ活用の形容動詞「すごげなり」の連用形。意味は「もの寂しい」。
4 聞こゆ ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の終止形。意味は「聞こえる」。
5 遊び給ふ バ行四段動詞「遊ぶ」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の終止形。意味は「楽器を演奏なさる」。「給ふ」は尊敬語で、「親王(八の宮)」に対する敬意。
6 ついで 名詞。意味は「機会」。
7 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

8 え聞かぬぞかし 副詞「え」+カ行四段動詞「聞くの未然形+打消の助動詞「ず」の連体形+終助詞「ぞ」+念押しの終助詞「かし」。意味は「聞くことができなかったなあ」。
9 なるべし 断定の助動詞「なり」の連体形+推量の助動詞「べし」の終止形。意味は「~であるにちがいない」。

「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「べし」の識別の解説

10 入り給へ ラ行四段動詞「入る」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の已然形。意味は「入りなさる」。「給へ」は尊敬語で、「薫」に対する敬意。
11 なりけり 断定の助動詞「なり」の連用形+詠嘆の助動詞「けり」の終止形。意味は「あったなあ」。
12 黄鐘調 名詞。雅楽の六調子の一つ。黄鐘の音を主音とする旋法。読みは「おうしきちょう」。
13 調べ バ行下二段動詞「調ぶ」の連用形。意味は「楽器の調子を合わせる」。
14 世の常 連語。意味は「普通」。
15 かきあはせ 名詞。調子合せの一曲のこと。
16 なれ 断定の助動詞「なり」の已然形。
17 所から 名詞。意味は「場所がら」。
18 にや 断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」。意味は「~であろうか」。「にや」の後に「あらん」が省略されている。

係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

19 耳慣れぬ ラ行下二段動詞「耳慣る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。意味は「聞き慣れない」。
20 かき返す サ行四段動詞「かき返す」の連体形。意味は「弦をはじいて鳴らす」。
21 もの清げに ナリ活用の形容動詞「もの清げなり」の連用形。意味は「すっきりと清らか」。
22 おもしろし ク活用の形容詞「おもしろし」の終止形。意味は「趣深い」。
23 筝の琴 名詞。筝のこと。
24 あはれに ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。意味は「しみじみと」。
25 なまめいたる カ行四段動詞「なまめく」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「優美である」。「なまめ」は「なまめ」がイ音便化している。
26 絶え絶え 副詞。意味は「とぎれとぎれに」。

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現代語訳

 (八の宮の屋敷が)近くなるにつれ、何の琴とも聞き分けられない楽器の音が、たいそうもの寂しく聞こえてくる。「(八の宮は姫君らと)いつもこのように演奏なさると聞いているが、機会がなくて、八の宮の琴のご演奏が名高いのも、(知っていたが)聞くことができないでいたなあ。(今回はちょうど)よい機会であるにちがいない。」と、(薫は)思いながら(屋敷に)入りなさると、(それは琴ではなくて)琵琶の音の響きであったなあ。黄鐘調に調子を合わせて、普通の調子合せの一曲であるが、場所柄なのであろうか、聞き慣れない心地がして、弦をはじいて鳴らす撥の音も、すっきりと清らかで趣深い。箏の琴が、(琵琶の音に交ざって)しみじみと優美である音色で、とぎれとぎれに聞こえている。
 
  
 
  
いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・「なる」の識別ができるようにしておきましょう。
(注1→動詞、注9→断定の助動詞)

・注18「にや」の後に省略されている語(あらん)が補えるようにしておきましょう

・注5・10の敬語表現が誰に対する敬意かが分かるようにしておきましょう。

(注5→親王(八の宮)、注10→薫)

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『源氏物語』「薫と宇治の姫君」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  

【樹下石上作北尾政美画『百福寿老人』(寛政六年刊)を参考に挿入画を作成】

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