『増鏡』「時頼と時宗」現代語訳と重要な品詞の解説2

  

では、続きを見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『増鏡』「時頼と時宗」現代語訳と重要な品詞の解説1

  

本文

 それが子なれ【注1】にや【注2】、今の時宗【注3】朝臣もいとめでたき【注4】【注5】て、「本院【注6】【注7】かく世をおぼし捨て【注8】んずる【注9】、いとかたじけなく【注10】あはれなる【注11】御ことなり【注12】故院【注13】の御おきては、やう【注14】こそあらめ【注15】。なれど、そこらの御兄【注16】て、させる【注17】御誤りもおはしまさざらん【注18】いかで【注19】かたちまちに名残なくはものし給ふ【注20】べき【注21】。いとたいだいしき【注22】わざなり。」とて、新院【注23】へも奏し【注24】、かなたこなたなだめ申し【注25】て、東の御方の若宮【注26】を坊に奉りぬ【注27】。十月五日、節会行は【注28】て、いとめでたし【注29】。かかれば、少し御心慰めて、このきは【注30】に強ひて背かせ給ふ【注31】べき【注32】道心【注33】【注34】あらね【注35】ば、おぼしとまりぬ【注36】。これぞあるべき【注37】ことと、あいなう【注38】世の人も思ひ言ふべし【注39】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 なれ 断定の助動詞「なり」の已然形。
2 にや 断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」。「や」の後に「あらん」という言葉が省略されている。

係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

3 時宗 名詞。北条時宗。鎌倉幕府八代執権。
4 めでたき ク活用の形容詞「めでたし」の連体形。
5 に 断定の助動詞「なり」の連用形。

「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「に」の識別の解説

6 本院 名詞。後深草院のこと。
7 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

8 世をおぼし捨て 連語。「世を捨つ」は「出家する」という意味で、「おぼす」は「お思いになる」という意味で、「思ふ」の尊敬語。「本院」に対する敬意。
9 んずる 婉曲の助動詞「んず」の連体形。意味は「~のような」。「んずる」の後に「こと」という名詞が省略されている。
10 かたじけなく ク活用の形容詞「かたじけなし」の連用形。意味は「恐縮だ」。
11 あはれなる ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連体形。意味は「気の毒だ」。
12 なり 断定の助動詞「なり」の終止形。
13 故院 名詞。後嵯峨院のこと。
14 やう 名詞。意味は「理由」。
15 あらめ ラ変動詞「あり」の未然形+推量の助動詞「む」の已然形。「め」は係助詞「こそ」に呼応している。
16 に 断定の助動詞「なり」の連用形。
17 させる 連体詞。意味は「たいした」。
18 おはしまさざらん サ行四段動詞「おはします」の未然形+打消の助動詞「ず」の未然形+推量の助動詞「ん」の終止形。「おはします」は「あり」の尊敬語。意味は「おありでないだろう」。「本院」に対する敬意。
19 いかで 副詞。意味は「どうして」。
20 ものし給ふ サ変動詞「ものす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の終止形。意味は「いらっしゃる」。「本院」に対する敬意。
21 べき 適当の助動詞「べし」の連体形。意味は「~するのがよい」。係助詞「か」に呼応している。
22 たいだいしき シク活用の形容詞「たいだいし」の連体形。意味は「あるまじきことである」。
23 新院 名詞。亀山院のこと。
24 奏し サ変動詞「奏す」の連用形。「言ふ」の謙譲語。意味は「(天皇や院に)奏上する」。「新院」に対する敬意。
25 なだめ申し マ行下二段動詞「なだむ」の連用形+サ行四段活用の補助動詞「申す」の連用形。「申し」は謙譲語。意味は「調停を申し上げて」。「本院」と「新院」に対する敬意。
26 東の御方の若宮 連語。後深草院の皇子のこと。
27 奉りぬ ラ行四段動詞「奉る」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の終止形。「与ふ」の謙譲語。意味は「差し上げた」。「東の御方の若宮」に対する敬意。
28 れ 受身の助動詞「る」の連用形。
29 めでたし ク活用の形容詞「めでたし」の終止形。意味は「祝賀すべきだ」。
30 きは 名詞。意味は「時」。
31 背かせ給ふ カ行四段動詞「背く」の未然形+尊敬の助動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の終止形。「給ふ」は尊敬語。二重尊敬。意味は「出家なさる」。「本院」に対する敬意。
32 べき 義務の助動詞「べし」の連体形。
33 道心 名詞。意味は「悟りを求める心・出家心」。
34 に 断定の助動詞「なり」の連用形。
35 あらね ラ変動詞「あり」の未然形+打消の助動詞「ず」の已然形。
36 おぼしとまりぬ ラ行四段動詞「おぼしとまる」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の終止形。「おもひとまる」の尊敬語。意味は「思い留まりなさった」。「本院」に対する敬意。
37 あるべき 連語。意味は「しかるべき」。
38 あいなう ク活用の形容詞「あいなし」の連用形。意味は「むやみに」。ウ音便。「あいなく」が「あいなう」に変化している。
39 べし 推量の助動詞「べし」の終止形。意味は「~にちがいない」。

「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「べし」の識別の解説

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現代語訳

 その方の子であるからであろうか、今の(執権の)時宗朝臣もとてもすばらしい方であって、「後深草院がこのように御出家をお思いになられるようなことは、とても恐縮でお気の毒なことである。後嵯峨院の御取決めは、理由があるのだろう。しかし、(後深草院は)多くの(皇子の)兄であり、たいした御過失もおありでないだろう。どうして突然名残なくいらっしゃりなさるのがよいだろうか。いやよいはずがない。とてもあるまじきことである。」と言って、亀山院へも奏上して、あちらこちらに調停を申し上げて、後深草院の皇子を皇太子にお立て差し上げた。十月五日に立太子の節会が行われて、とても祝賀すべきことであった。こういうことであるから、後深草院は少しお気持ちが慰められて、この時に無理に出家なさらなければならない出家心でもないので、思い留まれなさった。これはしかるべきことであると、むやみに世間の人々も思って、言うにちがいない。

  

いかがでしたでしょうか。

ここでは、敬語表現がたくさん登場して、しかも院が複数出てきます。
誰に対する敬意かをよくその文章を見て、確認しておきましょう。

  

  

ありがとうございました。
時頼と時宗、双方とも
エピソードが個性的で
おもしろかったです。

  
   

   
そうですか。喜んで
いただけたようなら、
こちらも講義した
甲斐があります。
  
  
  

講義をしていただいた
お礼に是非、これを
受け取って下さい。
礼には及びませんよ。
それでは、失礼。
  

  
  
  
  
  
  

・・・。
また、猫・・・。
これで、3匹目・・・。
流行ってるのかなあ・・・。
  
  
  

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