お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
さて、次回の句会の
準備でもするか。
『連珠合璧集』と
『類船集』はどこだっけ?
『類船集』はどこだっけ?
※『連珠合璧集』と『類船集』は、連歌と俳諧の連想語辞典です。
倉橋さん、お久しぶりです。
私、連歌を始めようと
思うんですけど、
教えてくれませんか?
私、連歌を始めようと
思うんですけど、
教えてくれませんか?
由井君、久しぶりー。
って言うか、何で捕まってんの!
連歌どころじゃないでしょ。
どうしたの?
って言うか、何で捕まってんの!
連歌どころじゃないでしょ。
どうしたの?
いやー。幕府に対して反乱を
起こそうとして、
ばれて捕まったんです。
起こそうとして、
ばれて捕まったんです。
極刑だと思うんですが、
その前に教えてくれません?
その前に教えてくれません?
教えてもいいですけど、
連歌は、皆でやるものだから、
捕まってると絶対詠めないよ。
捕まってると絶対詠めないよ。
でも、そこまで言うなら、
教えてあげましょう。
教えてあげましょう。
本文
連歌は心より起こりて、みづから学ぶべし【注1】。さらに【注2】師匠の【注3】教ふる【注4】ところに【注5】あらず【注6】。常に好みもてあそび【注7】て、上手に【注8】交じるべし【注9】。いかにすれども【注10】、堪能【注11】に交はらざれ【注12】ば上がることなし。不堪【注13】の者にのみ会合【注14】して稽古せ【注15】ん【注16】は、なかなか【注17】一向【注18】無沙汰なる【注19】にも劣るべし【注20】。初心のほど、ことに用心すべき【注21】ことなり【注22】。達者なほ【注23】しばらくも辺土【注24】に隠居しぬれ【注25】ば、やがて【注26】連歌の【注27】損ずるはこのゆゑなり【注28】。夙夜【注29】に好みて、当世の上手の風体【注30】を、彼らがするところの懐紙【注31】を見てよくよく心をとどめ、詞をとりて風情をめぐらすべし【注32】。ただ堪能に練習して、座功【注33】を積むよりほかの稽古はあるべからず【注34】。その上に、三代集【注35】・源氏の物語・伊勢物語・名所の歌枕、かやうのたぐひを披見【注36】して、興あるさまにとりなすべし【注37】。
重要な品詞と重要な語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 べし |
当然の助動詞「べし」の終止形。意味は「~べきだ」。 「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
2 さらに | 副詞。意味は後ろに打消表現が伴って「まったく~ない」。 |
3 の |
格助詞の主格。意味は「~が」。 助詞「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
4 教ふる | ハ行下二段動詞「教ふ」の連体形。 |
5 に |
断定の助動詞「なり」の連用形。 「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
6 ず | 打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「~ない」。 |
7 もてあそび |
バ行四段動詞「もてあそぶ」の連用形。意味は「興じ楽しむ」。 |
8 に | 格助詞。 |
9 べし | 当然の助動詞「べし」の終止形。 |
10 いかにすれども | 意味は「どのようにしても」。 |
11 堪能 | 名詞。意味は「習熟した人」。 |
12 ざれ | 打消の助動詞「ず」の已然形。 |
13 不堪 | 名詞。意味は「未熟な人」。 |
14 会合 | 名詞。意味は「一座」。 |
15 せ | サ変動詞「す」の未然形。 |
16 ん |
婉曲の助動詞「む(ん)」の連体形。意味は「~のような」。「ん」の後に「こと」という名詞が省略されています。 「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
17 なかなか | 副詞。意味は「かえって」。 |
18 一向 | 副詞。意味は「まったく」。 |
19 無沙汰なる | ナリ活用の形容動詞「無沙汰なり」の連体形。意味は「知らないこと」。 |
20 べし | 推量の助動詞「べし」の終止形。意味は「~ちがいない」。 |
21 べき | 当然の助動詞「べし」の連体形。 |
22 なり | 断定の助動詞「なり」の終止形。意味は「~である」。 |
23 なほ | 副詞。意味は「そのまま何もしないでいるさま」。 |
24 辺土 | 名詞。意味は「片田舎」。 |
25 ぬれ | 完了の助動詞「ぬ」の已然形。 |
26 やがて | 副詞。意味は「すぐに」 |
27 の | 格助詞の主格。 |
28 なり | 断定の助動詞「なり」の終止形。 |
29 夙夜 | 名詞。意味は「一日中。朝早くから夜遅くまで」。 |
30 風体 | 名詞。意味は「連歌で、言語と風情を統一した表現様式」。 |
31 懐紙 | 名詞。意味は「連歌を記録する紙のこと」。 |
32 べし | 当然の助動詞「べし」の終止形。 |
33 座功 | 名詞。意味は「連歌の興行や一座に参加して経験を積むこと」。 |
34 べからず | 当然の助動詞「べし」の未然形と打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「あるはずがない」。 |
35 三代集 | 名詞。古今和歌集・後撰和歌集・拾遺和歌集のこと。 |
36 披見 | 名詞。意味は「本を開いて見ること」。 |
37 べし | 適当の助動詞「べし」の終止形。意味は「~するのがよい」。 |
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現代語訳
連歌は、自分の心から起こって、みずから学ぶべきものである。決して師匠が教えるものではない。常に連歌を好み、興じて楽しんで、巧者と交わるべきである。どのようにしても、習熟した人と交流しなければ、上達することはない。未熟な人とだけ一座をして、稽古しているようなことは、かえってまったく連歌を知らない人にも劣ってしまうにちがいない。以上が、学び始めの頃は、特に注意しなければならないことである。連歌の達人が、そのまましばらく片田舎に隠棲してしまうと、すぐに連歌の技巧が衰えるのは、これが原因である。朝早くから夜遅くまで連歌を好んで、当代の連歌の巧者の表現様式を、彼らが一座をして、詠んだ連歌を記録した紙を見て、それをよくよく心に留め、彼らが詠んだ言葉を用いて、新しい趣向を考えるべきである。ただ習熟した人について繰り返し学び、連歌の一座に参加して経験を積むことよりほかの稽古はあるはずがない。その上に、三代集(古今和歌集・後撰和歌集・拾遺和歌集)や源氏物語や伊勢物語や名所の歌枕について解説した書物など、このようなものを開いて見て、興趣があるように利用するがよい。
いかがでしたでしょうか。
この箇所で重要な文法事項は以下の通りです。
・助動詞の「べし」がたくさん出てきますので、識別できるようにしておきましょう。
・連歌についての理論を述べているので、訳ができるようにしておきましょう。
この後の文章については、別ページで解説しますので、そちらをご参照下さい。
【芝全交作北尾政演画『通人いろはたんか 』(天明三年刊)・桜川杜芳作北尾政演画『日本多右衛門 』(天明三年刊)を参考に挿入画を作成】