『宇治拾遺物語』「検非違使忠明のこと」の現代語訳と重要な品詞の解説

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
 
 
あれ?
喧嘩の声がする…。
 
 
 
 
 
 
 
  
この野郎ー!
絶対許さないぞー!
 
  
 
すいません。
勘弁して下さい。
 
 
  
  
  
  
いいや。だめだ。
絶対に許さん。
 
  
 
まあまあ、
落ち着いて下さい。
何があったのか、
教えてくれませんか?
 
 
  
こいつがレジに、
割り込んで入って
来たんだよ!
 
  
 
ごめんなさい。
すごくスペースが
空いていたから
並んでないと思って…。
 
 
  
感染防止のために、
距離を空けてたんだよ。
お前からうつったら
どうすんだよ。
 
  
 
あのー。よろしいですか?
そんな密着して喧嘩したら、
余計感染するんじゃないですか?
 
 
 
  
あっ…。
 
 
  
 
 
何か他の所でも同様の事件が
起こってるみたいですけど、
もうちょっと冷静に
なった方がいいですよ。  
 
 
 
 
そうですよ。
過剰になりすぎですよ。
怒りの抑えて、
離れて下さい。
 
 
  
 
 
すまん…。つい、
カッとしてしまった…。
 
 
 
  
助かったー。ところで、
お侍さん、先生でしょ?
在宅学習中の息子のために
「検非違使忠明のこと」
教えてくれません?
  
 
 
あら、大変ですね。
いいですよ。
息子さんのために、
オンラインで講義致しましょう。
  
 
 

本文

 これも今は昔、忠明といふ検非違使【注1】ありけり【注2】。それが若かりける【注3】時、清水【注4】の橋のもとにて【注5】京童部ども【注6】いさかひ【注7】しけり【注8】。京童部手ごと【注9】に刀を抜きて、忠明を立てこめ【注10】殺さん【注11】しけれ【注12】ば、忠明も太刀を抜い【注13】て、御堂ざま【注14】に上るに、御堂の東のつま【注15】にも、あまた【注16】立ちて向かひ合ひたれ【注17】ば、内へ逃げ【注18】て、【注19】のもとを脇に挟みて前の谷へ躍り落つ【注20】。蔀、風にしぶかれ【注21】て、谷の底に、鳥【注22】ゐるやうに【注23】やをら【注24】落ちにけれ【注25】ば、それより逃げて往にけり【注26】。京童部ども谷を見おろして、あさましがり【注27】、立ち並みて見けれ【注28】ども、すべき【注29】やうもなく【注30】て、やみにけり【注31】なん【注32】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 検非違使 名詞。平安時代に創設された京都の犯罪や風俗を取り締まる役職。
2 ありけり ラ変動詞「あり」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「いた」。
3 若かりける ク活用の形容詞「若し」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「若かった」。
4 清水 名詞。清水寺のこと。
5 にて 格助詞。場所を表す。

「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「にて」の識別の解説

6 京童部ども 名詞。京都の無頼の若者たちのこと。
7 いさかひ 名詞。意味は「喧嘩」。
8 しけり サ変動詞「す」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「した」。
9 手ごと 名詞。意味は「各々の手」。
10 立てこめ マ行下二段動詞「立てこむ」の連用形。意味は「取り囲む」。
11 殺さん サ行四段動詞「殺す」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「殺そう」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

12 しけれ サ変動詞「す」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。
13 抜い カ行四段動詞「抜く」の連用形。「抜」は「抜」がイ音便化したもの。
14 御堂ざま 連語。意味は「本堂の方」。
15 つま 名詞。意味は「軒端」。
16 あまた 副詞。意味は「たくさん」。
17 向かひ合ひたれ ハ行四段動詞「向かひ合ふ」の連用形+完了の助動詞「たり」の已然形。意味は「向かい合った」。
18 逃げ ガ行下二段動詞「逃ぐ」の連用形。
19 蔀 名詞。格子を取り付けた坂戸のこと。
20 躍り落つ タ行上二段動詞「躍り落つ」の終止形。意味は「飛び落ちる」。
21 しぶかれ カ行四段動詞「しぶく」の未然形+受身の助動詞「る」の連用形。意味は「激しく吹き付けられる」。
22 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

23 ゐるやうに ワ行上一段動詞「ゐる」の連体形+比況の助動詞「やうなり」の連用形。意味は「とまっているようだ」。
24 やをら 副詞。意味は「静かに」。
25 落ちにけれ タ行上二段動詞「落つ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」已然形。意味は「落ちてしまった」。
26 往にけり ナ変動詞「往ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「行ってしまった」。
27 あさましがり ラ行四段動詞「あさましがる」の連用形。意味は「びっくりする」。
28 見けれ マ行上一段動詞「見る」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「見た」。
29 すべき サ変動詞「す」の終止形+可能の助動詞「べし」の連体形。意味は「することができる」。

「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「べし」の識別の解説

30 なく ク活用の形容詞「なし」の連用形。
31 やみにけり マ行四段動詞「やむ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「終わってしまった」。
32 なん 係助詞。「なん」の後に「言ふ」などが省略されている。

係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

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現代語訳

 これも今は昔のことだが、忠明という検非違使がいた。それが若かった時、清水寺の橋のもとで、京童部たちと喧嘩をした。京童部たちは各々の手に刀を抜いて、忠明を取り囲んで殺そうとしたので、忠明も太刀を抜いて、本堂の方に上ると、京童部たちは本堂の東の軒端に、たくさん立って向かい合ったので、忠明は本堂の内側へ逃げて、蔀の下の部分を脇に挟んで、(清水寺の舞台から)前の谷に飛び落ちる。蔀が風に激しく吹き付けられて、谷の底に、鳥がとまるように静かに落ちたので、忠明はそこから逃げて行ってしまった。京童部たちは、谷を見下ろして、びっくりして、立ち並んで見たけれども、何もすることもできなくて、終わってしまったと言われている。
 
  
 
  
いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・注11「ん」・注21「れ」・注29「べき」は助動詞の意味が分かるようにしておきましょう。
・注32「なん」の後に省略されている語(言ふ)が補えるようにしておきましょう。

・注26と注31にある「にけり」の「に」の意味の違いが分かるようにしておきましょう。

(注26の「に」→動詞の一部。注31の「に」→完了の助動詞)

  

  
  
  ありがとうございました。
帰ったら息子に教えます。
     
  
 
 
いいお父さんですね。
息子さんの在宅での勉強の
お手伝い、頑張って下さい。
 
 
  
話を聞いていたら、
京都に行きたくなって
来たなあ…。
  
  
 
 
駄目ですよ。
今は自粛が大事ですから、
終息してから訪れて下さい。
  
 
 
  
分かった。家に帰って、
「あつまれどうぶつの森」
やる。
   
  
 
 
いいなあ…。
 
 
 
 

【曲亭馬琴作北尾重政画『曲亭一風京伝張』(享和元年刊)を参考に挿入画を作成】

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