では、「若紫との出会い」の前回の続きの文章を見ていきましょう。
前回の解説はこちら。
『源氏物語』「若紫との出会い」の現代語訳と重要な品詞の解説1
本文
清げなる【注1】大人二人ばかり、さては童べぞ、出で入り遊ぶ【注2】。中に、十ばかりにやあらむ【注3】と見えて、白き衣、山吹【注4】などの【注5】なえたる【注6】着【注7】て、走り来たる【注8】女子、あまた【注9】見えつる【注10】子どもに似るべう【注11】もあらず【注12】、いみじく【注13】生ひ先【注14】見えて、うつくしげなる【注15】かたち【注16】なり【注17】。髪は、扇を広げたるやうに【注18】ゆらゆらとして、顔は、いと赤くすりなし【注19】て立てり【注20】。「何事ぞや【注21】。童べと腹立ち給へるか【注22】。」とて、尼君の【注23】見上げたる【注24】に、少しおぼえたる【注25】ところあれば、子なめり【注26】と見給ふ【注27】。「雀の子を、犬君【注28】が逃がしつる【注29】。伏籠【注30】の内にこめたりつる【注31】ものを。」とて、いとくちをし【注32】と思へり【注33】。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 清げなる | ナリ活用の形容動詞「清げなり」の連体形。意味は「清潔で美しい」。 |
2 遊ぶ | バ行四段動詞「遊ぶ」の連体形。係助詞「ぞ」に呼応している。 |
3 にやあらむ | 断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」+ラ変動詞「あり」の未然形+推量の助動詞「む」の連体形。意味は「であろうか」。「む」は、係助詞「や」に呼応している。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
4 山吹 | 名詞。山吹色の襲(かさね)のこと。 |
5 の | 格助詞の同格。意味は「~で」。
「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
6 なえたる | ヤ行下二段動詞「なゆ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「くたくたになっている」。「たり」の後に名詞の「もの」が省略されている。 |
7 着 | カ行上一段動詞「着る」の連用形。 |
8 走り来たる | カ変動詞「走り来」の連用形+完了(存続)の助動詞「たり」の連体形。意味は「走って来た・走って来ている」。 |
9 あまた | 副詞。意味は「たくさん」。 |
10 見えつる | ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「見えた」。 |
11 似るべう |
ナ行上一段動詞「似る」の終止形+当然の助動詞「べし」の連用形。意味は「似るはず」。「べう」は、「べく」がウ音便化している。 「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
12 あらず | ラ変動詞「あり」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。 |
13 いみじく | シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「たいそう」。 |
14 生ひ先 | 名詞。意味は「将来・行く先」。 |
15 うつくしげなる | ナリ活用の形容動詞「うつくしげなり」の連体形。意味は「かわいらしい」。 |
16 かたち | 名詞。意味は「容姿」。 |
17 なり | 断定の助動詞「なり」の終止形。意味は「~である」。 |
18 広げたるやうに | ガ行下二段動詞「広ぐ」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形+比況の助動詞「やうなり」の連用形。意味は「広げたようだ」。 |
19 すりなし | サ行四段動詞「すりなす」の連用形。意味は「むやみにこする」。 |
20 立てり | タ行四段動詞「立つ」の已然形+存続の助動詞「り」の終止形。意味は「立っている」。 |
21 や |
係助詞。「や」の後に、「あらん」などが省略されている。 係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
22 腹立ち給へるか | タ行四段動詞「腹立つ」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の已然形+完了の助動詞「り」の連体形+係助詞「か」。意味は「けんかしなさったのか」。「給へ」は尊敬語で、若紫に対する敬意。 |
23 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。 |
24 見上げたる | ガ行下二段動詞「見上ぐ」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形。意味は「見上げた」。「たる」の後に、「かたち」が省略されている。 |
25 おぼえたる | ヤ行下二段動詞「おぼゆ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「似ている」。 |
26 なめり | 断定の助動詞「なり」の連体形+推定の助動詞「めり」の終止形。意味は「~であるようだ」。元々「なるめり」であったものが、「なんめり」と撥音便化し、「なめり」という表記になった。 |
27 見給ふ | マ行上一段動詞「見る」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の終止形。意味は「御覧になる」。「給ふ」は尊敬語で、光源氏に対する敬意。 |
28 犬君 | 名詞。若紫の遊び相手の名前。 読みは「いぬき」。 |
29 逃がしつる | サ行四段動詞「逃がす」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「逃がしてしまった」。 |
30 伏籠 | 名詞。伏せてその上に衣服をかけるための籠のこと。 |
31 こめたりつる | マ行下二段動詞「こむ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「閉じ込めていた」。 |
32 くちをし | シク活用の形容詞「くちをし」の終止形。意味は「残念だ」。 |
33 思へり | ハ行四段動詞「思ふ」の已然形+存続の助動詞「り」の終止形。意味は「思っている」。 |
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現代語訳
いかがでしたでしょうか。
この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。
・敬語表現は誰に対する敬意か分かるようにしておきましょう。
→注27は光源氏、注22は若紫に対する敬意。
・格助詞「の」の識別ができるようにしておきましょう。
→注5が同格(~で)、注23が主格(~が)。
・注26「なめり」は品詞分解、元の形が分かるようにしておきましょう。
・注3、注11と注12のセットは、重要表現ですので、訳せるようにしておきましょう。
続きは以下のリンクからどうぞ。
『源氏物語』「若紫との出会い」の現代語訳と重要な品詞の解説3