『うたたね』「出家の決意」の現代語訳と重要な品詞の解説3

  

では、「出家の決意」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

  

『うたたね』「出家の決意」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  
  

本文

  なげき【注1】つつみを【注2】早き瀬のそこ【注3】だに【注4】知らず【注5】迷はん【注6】跡ぞかなしき【注7】

 身をも投げてん【注8】思ひけるにや【注9】
 ただ今も出でぬべき【注10】心地して、やをら【注11】端を開けたれ【注12】ば、晦日【注13】ごろの月なき空に雨雲さへ立ち重なりて、いともの恐ろしう【注14】暗きに、夜もまだ深きに、宿直人【注15】さへ折しもうち声づくろふ【注16】むつかし【注17】聞きゐたる【注18】に、かくても人にや見つけられん【注19】そら恐ろしけれ【注20】ば、もとのやうに【注21】入りて臥しぬれ【注22】ど、かたはらなる【注23】人、うち身じろき【注24】だにせず【注25】。先々も宿直人【注26】夜深く門を開けて出づるならひ【注27】なりけれ【注28】ば、そのほどを人知れず【注29】待つに、今宵しもとく【注30】開けて出でぬる【注31】音すれば。さるは、心ざす道もはかばかしく【注32】おぼえず【注33】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 なげき カ行四段動詞「なげく」の連用形。「嘆き」と「投木」の掛詞となっている。
2 みを 連語。「身を」と「澪」の掛詞となっている。
3 そこ 名詞。「底」と「其処」の掛詞となっている。
4 だに 副助詞。意味は「~でさえ」。
5 知らず ラ行四段動詞「知る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。意味は「分からない」。
6 迷はん ハ行四段動詞「迷ふ」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「迷うような」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

7 かなしき シク活用の形容詞「かなし」の連体形。係助詞「ぞ」に呼応している。

係り結びの法則については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの法則の解説

8 投げてん ガ行下二段動詞「投ぐ」の連用形+確述(強意)の助動詞「つ」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「投げよう」。
9 思ひけるにや ハ行四段動詞「思ふ」の連用形+過去の助動詞「ける」の連体形+断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」。意味は「思ったのだろうか」。「や」の後に「あらん」が省略されている。

係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

10 出でぬべき ダ行下二段動詞「出づ」の連用形+確述(強意)の助動詞「ぬ」の終止形+意志の助動詞「べし」の連体形。意味は「出よう」。

「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「べし」の識別の解説

11 やをら 副詞。意味は「静かに」。
12 開けたれ カ行下二段動詞「開く」の連用形+完了の助動詞「たり」の已然形。意味は「開けた」。
13 晦日 名詞。意味は「月末」。読みは「つごもり」。
14 もの恐ろしう シク活用の形容詞「もの恐ろし」の連用形。「もの恐ろし」は「もの恐ろし」がウ音便化している。
15 宿直人 名詞。当直の警備の人のこと。読みは「とのいびと」。
16 うち声づくろふ ハ行四段動詞「うち声づくろふ」の連体形。他の人に声が聞こえるように言うこと。
17 むつかし シク活用の形容詞「むつかし」の終止形。意味は「わずらわしい」。
18 聞きゐたる ワ行上一段動詞「聞きゐる」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「その場でじっと聞いている」。
19 見つけられん カ行下二段動詞「見つく」の未然形+受身の助動詞「らる」の未然形+推量の助動詞「ん」の連体形。意味は「見つけられるだろう」。「ん」は係助詞「や」に呼応している。
20 そら恐ろしけれ シク活用の形容詞「そら恐ろし」の已然形。意味は「なんとなく恐ろしい」。
21 やうに 状態の助動詞「やうなり」の連用形。意味は「~ようだ」。
22 臥しぬれ サ行四段動詞「臥す」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の已然形。意味は「横になった」。
23 なる 存在の助動詞「なり」の連体形。意味は「~にいる」。
24 うち身じろき 名詞。意味は「身動き」。
25 せず サ変動詞「す」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「しない」。
26 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

27 ならひ 名詞。意味は「習慣」。
28 なりけれ 断定の助動詞「なり」の連用形+過去の助動詞「けれ」の已然形。意味は「~だった」。
29 人知れず 連語。意味は「ひそかに」。
30 とく 副詞。意味は「早く」。
31 出でぬる ダ行下二段動詞「出づ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連体形。意味は「出た」。
32 はかばかしく シク活用の形容詞「はかばかし」の連用形。意味は「はっきりしている」。
33 おぼえず ヤ行下二段動詞「おぼゆ」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「感じない」。

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現代語訳

 嘆きながら身を川の早瀬の底に投げたとしても、そこがどこかでさえ分からず、魂が迷うような死後のことが悲しいものだ。
 (あのときは)身を投げようと思ったのだろうか。
 今すぐにでも出ようと気持ちがして、静かに縁側の妻戸を開けたところ、月末ごろの月のない空に雨雲まで立ちこめて、たいそう恐ろしく暗い上に、夜もまだ深いときに、宿直人でさえちょうどその時に、他の人に声が聞こえるように言うのもわずらわしい(のだろう)とその場でじっと聞いていると、こうしていても(いずれ)他の人に見つけられるのだろうかとなんとなく恐ろしくなったので、もとのように(部屋に)入って横になったが、そばにいる人は、身動きさえしない。以前も宿直人が夜の暗いうちに門を開けて出て行く習慣があったので、その時を人知れず待っていると、今夜は特に早く開て出た音がするので(、私も部屋を出た)。そうはいうものの、目ざす道もはっきりとしていると感じない。

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・和歌の掛詞が分かるようにしておきましょう。(注1・2・3

・助動詞「ん」の意味の識別ができるようにしておきましょう。
(注6→婉曲、注8→意志、注19→推量)

・注9「思ひけるにや」の後に省略されている語が補えるようにしておきましょう。

・助動詞がセットになっている所(注10・19・28)は助動詞の意味が分かるようにしておきましょう。

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『うたたね』「出家の決意」の現代語訳と重要な品詞の解説4

  

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