『十訓抄』「大江山いくのの道」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  

では、「大江山いくのの道」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

  

『十訓抄』「大江山いくのの道」の現代語訳と重要な品詞の解説1

  
  

本文

  大江山【注1】いくの【注2】の道【注3】遠けれ【注4】
  まだふみ【注5】みず【注6】天の橋立【注7】

 詠みかけけり【注8】思はず【注9】に、あさましく【注10】て、「こはいかに、かかるやうやはある【注11】。」とばかり言ひて、返歌にも及ばず【注12】、袖を引き放ちて、逃げられけり【注13】。小式部、これより歌詠みの、世に覚え【注14】出で来にけり【注15】
 これはうちまかせて【注16】理運【注17】のことなれ【注18】ども、かの卿の心には、これほどの歌、ただいま【注19】詠みいだすべし【注20】とは、知られざりけるにや【注21】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 大江山 名詞。山城国(京都府の南東部)にある丹波の国の生野に行くときに見える山。
2 いくの 地名。現在の京都府福知山市生野(いくの)のこと。掛詞になっており、「生野」と「行く野」が掛かっている。
3 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

4 遠けれ ク活用の形容詞「遠し」の已然形。
5 ふみ 名詞。手紙のこと。掛詞になっており、「文(ふみ)」と「踏み」が掛かっている。
6 みず マ行上一段動詞「みる」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「見てない」。
7 天の橋立 名詞。日本三景の一つで、丹後の国の名所で歌枕。
8 詠みかけけり カ行下二段動詞「詠みかく」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「詠んで返歌を求めた」。
9 思はずに ナリ活用の形容動詞「思はずなり」の連用形。意味は「思いがけず」。
10 あさましく シク活用の形容詞「あさまし」の連用形。意味は「驚く」。
11 ある ラ変動詞「あり」の連体形。係助詞「やは」に呼応している。

係り結びの法則については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの法則の解説

12 及ばず バ行四段動詞「及ぶ」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。
13 逃げられけり ガ行下二段動詞「逃ぐ」の未然形+尊敬の助動詞「らる」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「お逃げになった」。「られ」は、定頼中納言に対する敬意。
14 覚え 名詞。意味は「評判」。
15 出で来にけり カ変動詞「出で来」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「出てきてしまった」。
16 うちまかせて 副詞。意味は「普通」。
17 理運 名詞。意味は「道理にかなっていること」。
18 なれ 断定の助動詞「なり」の已然形。
19 ただいま 副詞。意味は「今すぐ」。
20 詠みいだすべし サ行四段動詞「詠みいだす」の終止形+可能の助動詞「べし」の終止形。意味は「詠み出すことができる」。

「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「べし」の識別の解説

21 知られざりけるにや ラ行四段動詞「知る」の未然形+尊敬の助動詞「る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形+断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」。意味は「お分かりにならなかったのだろうか」。「れ」は、定頼中納言に対する敬意。「にや」の後に、「あらん」が省略されている。

「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「に」の識別の解説

係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

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現代語訳

  大江山を見ながら、生野を通って行く道が遠いので、  

  まだ天の橋立にも行ったこともありませんし、母からの手紙も見たこともありません。  

と詠んで返歌を求めた。(定頼中納言は)思いがけず驚いて、「これはどういうことだ、こんなことがあるだろうか。」とだけ言って、返歌も及ばないで、(小式部内侍がつかんだ)袖を振り払って、お逃げになった。小式部内侍は、この出来事以来、歌人としての世間での評判が、出て来てしまった。
これは、(和泉式部の娘である)小式部内侍にとっては普通の、道理にかなったことであるが、藤原公任の子であるあの定頼卿の頭では、これほどのすばらしい歌を、(小式部内侍が)今すぐに詠み出すことができるとは、お分かりにならなかったのだろうか。

  

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・和歌にある掛詞が分かるようにしておきましょう。

(「生野」と「行く野」、「文」と「踏み」)

・注13・21の敬語表現は誰に対する敬意か分かるようにしておきましょう。

(注13・21→定頼中納言)

・注21の「にや」の後に省略されている語を補えるようにしておきましょう。

・注15と21にある「に」の違いが分かるようにしておきましょう。

(注15→完了の助動詞、注21→断定の助動詞)

  

  

ありがとうございました。
久しぶりに聞けて、
楽しかったです。
  
  

  

それは良かったです。
こちらも話した甲斐が
ありました。

  
  
おっと、急がないと!
配達の時間に
遅れてしまう。

  
    

  

ところで小式部内侍さんに
何を配達するんですか?

  
  
  
  

「あつまれどうぶつの森」
です。

    

  

…。
「イーツ」なのに、
食べ物じゃない…。

  
  

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