『今昔物語集』「狼と母牛」の現代語訳と重要な品詞の解説2

では、「狼と母牛」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『今昔物語集』「狼と母牛」の現代語訳と重要な品詞の解説1

  

本文

 牛、それをも知らず【注1】して、「狼はいまだ生きたる【注2】。」とや思ひけむ【注3】、突かへながら、夜もすがら【注4】、秋の夜の長きになむ【注5】、踏み張りて立てりけれ【注6】ば、子は、傍らに立ちてなむ泣きける【注7】
これを、牛の主の隣なりける【注8】小童部、それもまた牛追ひ入れむ【注9】とて、田居に行きたりける【注10】が、狼【注11】牛を巡りありきけるまでは見けれ【注12】ども、幼き奴にて【注13】、日【注14】暮れにけれ【注15】ば、牛を追ひて家に帰り来たりけれ【注16】ども、ともかくも言は【注17】ありけるに、かの牛の主【注18】、夜明けて、「夜前、牛を追ひ入れざりける【注19】。その牛は食みや失せぬらむ【注20】。」と言ひける時にぞ、隣の小童部、「御牛は、夜前しかしかの所にて【注21】こそ、狼の巡りありきしか【注22】。」と言ひければ、牛の主、聞き驚きて、惑ひ騒ぎて行きて見ければ、牛、大きなる【注23】狼を片岸に突き付けて、動か【注24】立てり【注25】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 知らず ラ行四段動詞「知る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。
2 生きたる カ行四段動詞「生く」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。
3 や思ひけむ 係助詞「や」+ハ行四段動詞「思ふ」の連用形+過去推量の助動詞「けむ」の連体形。意味は「思ったのだろうか」。
4 夜もすがら 副詞。意味は「夜通し・一晩中」。
5 なむ 係助詞。「なむ」の後に「ありける」が省略されている。

係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

6 立てりけれ タ行四段動詞「立つ」の已然形+存続の助動詞「り」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「立っていた」。
7 ける 過去の助動詞「けり」の連体形。係助詞「なむ」に呼応している。
8 なりける 存在の助動詞「なり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「いた」。
9 追ひ入れむ ラ行下二段動詞「追ひ入る」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「追って入れよう」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

10 行きたりける カ行四段動詞「行く」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。
11 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

12 見けれ マ行上一段動詞「見る」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。
13 にて 断定の助動詞「なり」の連用形+接続助詞「て」。意味は「~であって」。

「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「にて」の識別の解説

14 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
15 暮れにけれ ラ行下二段動詞「暮る」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「暮れてしまった」。
16 来たりけれ カ変動詞「来(く)」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。
17 で 接続助詞。打消表現。意味は「~ないで」。
18 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
19 追ひ入れざりける ラ行下二段動詞「追ひ入る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。
20 や失せぬらむ 係助詞「や」+サ行下二段動詞「失(う)す」の連用形+強意(確述)の助動詞「ぬ」の終止形+現在推量の助動詞「らむ」の連体形。「らむ」は係助詞「や」に呼応している。意味は「いなくなってしまっているだろうか」。
21 にて 格助詞。場所を表わす。意味は「~で」。
22 しか 過去の助動詞「き」の已然形。係助詞「こそ」に呼応している。
23 大きなる ナリ活用の形容動詞「大きなり」の連体形。
24 で 接続助詞。打消表現。意味は「~ないで」。
25 立てり タ行四段動詞「立つ」の已然形+存続の助動詞「り」の終止形。

スポンサーリンク

現代語訳

 母牛(牝牛)は、そのことを知らないで、「狼はいまだ生きている。」と思ったのだろうか、突いて押しつけたまま、一晩中、秋の夜でたいへん長かったが、踏ん張って立っていたので、子牛は、側に立って泣いていた。
このことを、牛の持ち主の隣に住んでいた幼い子どもが、それもまた牛を追って入れようとして、田に行ったのだったが、狼が牛の周りを歩き廻っていたところまでは見ていたのだが、まだ幼いものであって、(かつ)日が暮れてしまったので、牛を追い出したまま家に帰って来てしまったけれど、(牛の持ち主に)なんとも言わないでいたが、牛の持ち主が、夜が明けて、「ゆうべ、牛を追い入れなかった。その牛は、(今頃、草を)食べながらいなくなってしまっているだろうか。」と言った時に(はじめて、)隣の幼い子どもが、「あなたの御牛は、ゆうべこれこれという所で、(その側で)狼が歩き廻っていました。」と言ったので、牛の持ち主は、聞いて驚いて、慌てて騒いで行って見たところ、牛は、大きな狼を片岸に突きつけて、動かないで立っていた。

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所も重要な文法事項がたくさんあります。
まず、「注3」に過去推量の助動詞「けむ」と「注20」に現在推量の助動詞「らむ」が出てきますので、助動詞の意味が分かるのと現代語訳がきちんでできるようにしておきましょう

また、「注13」と「注21」の「にて」は品詞が異なりますので、見分けがつくようにしておきましょう

その他にも、助動詞が複数組み合わされているものや助動詞で係助詞に呼応して文末が変化しているものもありますので、確認しておきましょう。

  

ありがとうございました。
話はここで終わりですか?

  
  

  

いいえ。まだありますよー。

続きは以下のリンクからどうぞ。

  

『今昔物語集』「狼と母牛」の現代語訳と重要な品詞の解説3

  

シェアする

スポンサーリンク