『更級日記』「猫」の現代語訳と重要な品詞の解説1

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
 
 
あれ、いないなあー。
どこ行った?
 
 
 
 
倉橋先生、
何を探しているんですか?
 
 
 
 
おお、時太郎君か。
芝全交先生に猫を
あげる約束したんだけど、
家にいた猫がいないんだ。
 
 
 
 
 
猫でしたら、
庭にいましたよ。
ほら。
 
 
 
 
 
 
 
ん?
何だこの画面は?
 
 
 
 
ドラクエですね。
私もファミコンで
よくやりました。
 
 
 
 
君、4歳だろ(笑)。
ファミコン世代じゃないだろー。
あと、何で時太郎君の方が
私より強いの?
 
 
 
 
先生!そんなことより
猫たちの様子が!!
 
 
 
 
 
・・・。
なんか画面に入りきって
ないんだけど(笑)。
 
 
 
 
!!!
まさか?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ドッゴーン!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
!!!!!!!
えーーー!!!
何だこれは!!
 
 
 
 
 
猫又です!
しかも、猫又の長、
キング猫又です!
 
 
 
※猫又とは、猫が年老いて尾が二つに分かれ、化けて人に害を与える妖怪のことです。
 
 
 
 
キング猫又!!
でかすぎだろー。
40mぐらいあるぞ。
 
 
 
 
 
先生、倒しましょう。
 
 
 
 
いや、無理だろ(笑)。
絶対、倒せんわ。
 
 
 
 
 
倉橋、わしが手伝うぞ。
 
 
 
 
チュー殿様!!
中央大学の入試解説で
会った、
チュー殿様!!
 
 
 
 
お前は足手まといじゃ。
時太郎とわしで
キング猫又を倒すから
その間、『更級日記』の
「猫」の話をわしにせい。
 
 
 
 
分かりました。
私にはそちらの方が
向いています。
 
 
 

本文

 花【注1】咲き散る折ごとに、乳母亡くなりし【注2】折ぞかし【注3】、とのみあはれなる【注4】に、同じ折亡くなりたまひし【注5】侍従の大納言の御女の【注6】を見つつ、すずろに【注7】あはれなるに、五月ばかり、夜ふくるまで、物語を読みて起きゐたれ【注8】ば、来つらむ【注9】方も見えぬ【注10】に、猫【注11】いとなごう【注12】鳴いたる【注13】を、おどろきて見れば、いみじう【注14】をかしげなる【注15】猫あり。いづく【注16】より来つる【注17】猫ぞと見るに、姉なる【注18】人、「あなかま【注19】、人に聞かすな【注20】。いとをかしげなる猫なり【注21】飼はむ【注22】。」とあるに、いみじう【注23】人馴れつつ、傍らにうち臥したり【注24】尋ぬる【注25】やある【注26】と、これを隠して飼ふに、すべて下衆のあたりにも寄らず【注27】つと【注28】前にのみありて、ものもきたなげなる【注29】は、ほかざまに顔を向けて食はず【注30】。姉・おとと【注31】の中につとまとはれて、をかしがりらうたがる【注32】ほどに、姉【注33】なやむ【注34】ことあるに、もの騒がしくて、この猫を北面にのみあらせ【注35】呼ばね【注36】ば、かしかましく【注37】鳴きののしれども、なほ【注38】さるにて【注39】こそは【注40】と思ひてあるに、

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

2 亡くなりし ラ行四段動詞「亡くなる」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「亡くなった」。
3 かし 念押しの終助詞。意味は「~よ。・~ね。」。
4 あはれなる ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連体形。意味は「しみじみとした寂しさ」。
5 亡くなりたまひし ラ行四段動詞「亡くなる」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「お亡くなりになった」。「たまひ」は尊敬語で、侍従の大納言に対する敬意。
6 手 名詞。意味は「筆跡」。
7 すずろに ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連用形。意味は「思いがけず・むやみ」。
8 起きゐたれ ワ行上一段動詞「起きゐる」の連用形+存続の助動詞「たり」の已然形。意味は「起きて座っている」。
9 来つらむ カ変動詞「来(く)」の連用形+確述(強意)の助動詞「つ」の終止形+推量の助動詞「らむ」の連体形。意味は「やって来たろう」。
10 見えぬ ヤ行下二段動詞「見ゆ」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。意味は「見えない」。
11 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
12 なごう ク活用の形容詞「なごし」の連用形。「なご」は「なご」がウ音便化している。
13 鳴いたる カ行四段動詞「鳴く」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「鳴いている」。「鳴」は「鳴」がイ音便化している。
14 いみじう シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「たいそう」。「いみじ」は「いみじ」がウ音便化している。
15 をかしげなる ナリ活用の形容動詞「をかしげなり」の連体形。意味は「かわいらしい」。
16 いづく 代名詞。意味は「どこ」。
17 来つる カ変動詞「来(く)」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「来た」。
18 なる 断定の助動詞「なり」の連体形。
19 あなかま 連語。意味は「静かに」。
20 聞かすな カ行四段動詞「聞く」の未然形+使役の助動詞「す」の終止形+禁止の終助詞「な」。意味は「聞かせるな」。
21 なり 断定の助動詞「なり」の終止形。
22 飼はむ ハ行四段動詞「飼ふ」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「飼おう」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

23 いみじう シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「たいそう」。「いみじ」は「いみじ」がウ音便化している。
24 うち臥したり サ行四段動詞「うち臥す」の連用形+存続の助動詞「たり」の終止形。意味は「寄り添って寝ている」。
25 尋ぬる ナ行下二段動詞「尋ぬ」の連体形。
26 やある 係助詞「や」+ラ変動詞「あり」の連体形。意味は「いるのか」。

係り結びの法則については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの法則の解説

27 寄らず ラ行四段動詞「寄る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。
28 つと 副詞。意味は「じっと・ずっと」。
29 きたなげなる ナリ活用の形容動詞「きたなげなり」の連体形。意味は「汚らしい」。
30 食はず ハ行四段動詞「食ふ」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。
31 おとと 名詞。男女にかかわらず年下の者のこと。
32 らうたがる ラ行四段動詞「らうたがる」の連体形。意味は「かわいがる」。
33 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
34 なやむ マ行四段動詞「なやむ」の連体形。意味は「患う・病気をする」。
35 あらせ ラ変動詞「あり」の未然形+使役の助動詞「す」の連用形。意味は「いさせる」。
36 呼ばね バ行四段動詞「呼ぶ」の未然形+打消の助動詞「ず」の已然形。
37 かしかましく シク活用の形容詞「かしかまし」の連用形。意味は「やかましい」。
38 なほ 副詞。意味は「やはり」。
39 にて 断定の助動詞「なり」の連用形+接続助詞「て」。

「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「にて」の識別の解説

40 こそは 係助詞「こそ」+係助詞「は」。「こそは」の後に「あらめ」が省略されている。

係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

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現代語訳

 花が咲き散る時節ごとに、「乳母が亡くなった季節だなあ」とだけ感じ、しみじみとした寂しさになるが、同じ時にお亡くなりになった侍従の大納言の姫君の筆跡を見つつ、むやみに寂しくなる。五月頃に、夜が更けるまで、物語を読んで起きて座っているところに、やって来たろう方角は見ていなかったが、猫がとてものどかに鳴いている。はっとして見ると、たいそうかわいらしい猫がいる。「どこから来た猫だ」と見ると、姉である人が、「静かに。人に聞かせるな。とてもかわいらしい猫である。飼おう」と(言って飼ってみると)、猫はたいへん人に馴れて、私のそばで寄り添って寝ている。(猫を探して)尋ねる人がいるかと思い、これを隠して飼っていたが、猫はまったく使用人のところに寄りつかず、じっと私たちの前にだけいて、食べ物も汚らしいものには、よその方に顔を向けて食べない。私たち姉妹の中にじっとまとわりついていたので、私たちはかわいらしく思い、かわいがっていたが、姉が病気を患うことがあって、家の中が騒がしくなり、この猫を北側の部屋にのみいさせて、こちらに呼ばないでいると、猫はやかましく鳴き騒ぐ。やはりそういこと(=寂しくて鳴く)はあるだろうと思っていると、

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

・「注9」の助動詞の意味と現代語訳が出来るようにしておきましょう。

・「注40」の係り結びの省略の省略された語が補えるようにしておきましょう。

続きは以下のリンクからどうぞ。

『更級日記』「猫・大納言殿の姫君」の現代語訳と重要な品詞の解説2

【芝全交作鳥居清長画『冷水灰毛猫』(天明元年刊)を参考に挿入画を作成】

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